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エゴイストのinotomoのレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
4.1
雑誌の編集者として働く浩輔は、ゲイ仲間の友人から、パーソナルトレーナーの龍太を紹介される。母を養い、トレーナーの仕事とバイトを掛け持ちしながら生活する龍太に、浩輔はすぐに好感を持つ。やがて、お互いの気持ちを確かめ合い、恋人同士となる浩輔と龍太。病気がちの母のために必死に働く龍太に、浩輔は金銭面での援助を申し出る。龍太の母とも会う機会を持ち、関係を築く浩輔。そんな中、浩輔は龍太の母からある知らせを受け取る。

ゲイのカップルを主人公にしたラブストーリーかと思いきや、途中から印象がどんどん変わっていく作品。ハンディカムとアップを多用し、BGMもほとんどなく、まるでドキュメンタリーを見ているような感覚になるし、セリフもリアリティがある生きたセリフになっていたと思う。もちろんフィクションの物語の展開にはなっているのだけど、それらが作品の印象や見終わったあとの余韻に大きく影響していると感じた。

映画を見たあと、タイトルの「エゴイスト」の意味を考えた。一般的な「利己主義」とか「自分勝手なわがままな人」という意味でのタイトルだと思っていたら少し違って、誰かにその人が思う以上の愛情を形として示す時、それはその人の為というよりは、自分の欲求を単に満たすだけに過ぎないのかもしれず、それはもしかしたら独りよがりの愛情なのかもしれないということ。早くに母親を亡くしている浩輔は、自分の母にしてあげられなかったことを、龍太を通じて龍太の母にしていく。ちょっと違和感を覚えるくらいの、親切を超えたその愛情は、もしかしたら浩輔のエゴだったのかもしれない。龍太に注ぎきれなかった思いも含めて、龍太の母に注ぐその愛情が、一方通行ではなかったと知らされるラストシーンには胸がいっぱいになった。

浩輔役の鈴木亮平と、龍太役の宮沢氷魚がとにかく素晴らしかった。
ゲイである自分を隠してきた思春期を経て、ブランドもので鎧をまとい生きている浩輔。演じている鈴木亮平のちょっとした仕草や、恋にときめく表情やたたずまいが説得力抜群。ゲイの男性を演じるという点で、ちょっとキワモノになりそうなところを絶妙な匙加減で演じていて本当に素晴らしかった。
そして、龍太を演じた宮沢氷魚は、光を放っているかのような魅力を発揮していて、儚く美しかった。これからも、ますます俳優として活躍して欲しい。

予想外の展開ではあったけれど、人間の本質に向き合った秀作だと思った。
鈴木亮平と宮沢氷魚には、ぜひ何かの演技賞をあげたい。
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