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エゴイストのminoruのネタバレレビュー・内容・結末

エゴイスト(2023年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

条件付きの愛、について考えてしまう。
愛を表明するときに、金品を渡さずにはいられない心情の裏には、日本社会において同性愛者として人を愛することへの後ろめたさがある。
少し不可解なタイミングで発せられる「ごめんなさい」という言葉にもそれが表れている。

新宿の居酒屋や路上での会話、突然キスされた時の感じ、初めて自宅に行った時の気持ち、男性の肌に触れる感覚……などなど、畳み掛けるように、生々しくリアルな描写が続くので、それにどことなく居心地の悪さやこそばゆさを感じながらも、同時に鈴木亮平の繊細な役作りに震えた。
居心地の悪さの原因はまさに、本来明るみになるはずがないと思っていたはずの、極めて個人的な体験や感情がありありと描かれ、それを今をときめく俳優陣が演じているところ。

"白日に晒される"感覚。けどこれは、いかに自分が普段から自分の感情や体験を日陰に押しやっているか、また、社会からそうさせられているかの証左なのだなと思った。


仕草や会話内容のリアルさだけでなく、飲む仲間はいても、決して心の内までは明かさない交友関係や、高級な部屋に住んでいるけど孤独感と隣り合わせな心情などにも、今を生きている当事者のひとつのリアルがあったと感じる。


パートナーの死に際して、同性婚が認められていないこの国の同性カップルにはどういう結果が待っているか。肉親からかけられる言葉をはぐらかし続けながら生きること。嘘をつき続けながら社会で生きること。
それらはゲイ当事者にとっての日常であって、殊更目新しいことではない。だからか、ストーリーそのものに対して特別心を動かされることはなかった。

映画自体は啓蒙的ではない作りにはなっているものの、正直当事者としては、もう知ってるよ、とか、あるあるだな、という内容なわけで、やはり一般社会に向けた啓蒙的な側面を感じた。
これをゲイ当事者でない人がどう観るのか興味がある。
 
何より、上映にあたって鈴木亮平と宮沢氷魚が様々な取材で、現在のLGBTQ+を取り巻く諸問題にかなり踏み込んで発言してくれたことに心から感謝している。
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