shibamike

ブリティッシュ・ロック誕生の地下室のshibamikeのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

ビートルズ?プレスリー?
んなもん知らねえ!いらねぇ!
ブルースが俺たちの全てだ!!


と誰も言ってはいないのだけれど(みんなプレスリーとか大好きだらうし)、自分は本作を見終えて、さういうことを思った。
10代の頃のミックやキースやブライアンやピートの青春に想いを馳せる。


「だうしてアメリカのブルースミュージックが60年代のイギリスの若者に支持されたのか。」

という我々の疑問における解答のヒントとなるやうな話を聴かせてくれるドキュメンタリーガーエー。
知らない話と知らない人ばかりで学問させてもらいました。
ストーンズ、フゥー、クリーム、アニマルズ、プリティ・シングス、マンフレッド・マン、バーズ(ByrdsじゃなくBIRDSの方)…etcと作品中によだれの出るやうな千両バンドは出揃っているのだけれど、各スーパーバンドの成功譚と言うよりも、当事者達による裏話であったり、当時のロンドンについての風俗的な話であったりと様々な話が盛り盛りの増し増しで勉強になったっす。

イーリング・クラブというのもまったく知らなかったし、クリス・ハーバーという人もシリル・デイヴィスという人もまったく知らなかった(ハゲてんじゃんコイツ、と思ってしまった)。アレクシス・コーナーという人の名前くらいは知っていたけど、シーンにとってそんなに超重要な人だったというのは知らなかったので勉強になった。
 そいで、しみじみ思ったのは、やっぱりパンクでもレゲエでも映画でも何でも場所を提供する人・用意する人っつーのはマジで大切なんだなということであった。自分が10代とか20代の時にもさういう可能性で膨れ上がった場所ってあったんだらうか?と昔を思い返したりもしたけど、思い当たらず。さういう場所を見つける嗅覚というのも大事よね。自分は人生の慢性的鼻炎の鼻詰まり野郎ですわな。
 レゲエのときといい、今回はブルースで、イギリスっちゅーところは文化のハブとなって、世界にうまいこと発信するんですなぁ。

60年代ロック前夜の話ながら、本作ではビートルズの話が1ミリも出てこなかった(前夜だものね)。ロンドンがイーリング・クラブやマーキー・クラブなんかでブルースの大爆発を起こしている時、ファブ4はハンブルクのスタークラブなんかで大爆発していたのだよね。本当、スゲー時代である。同時多発的にあちこちで天才ミュージシャンの玉子達が死にものぐるいで藻掻いていた。
青春。
ロケンローの青春だよ。
イーリング・クラブでは色んなミュージシャンが流動的にくっついたり離れたりしていたやうで、専門学校チックと言うかやっぱ青春ですわな。校則はただ一つ、ブルース至上主義。

10代のミックについて言われていたことに、
「ミックはどんなブルースの歌も知っていた。」
というのが映画中にあり、本当にブルースオタク、ブルースキチガイだったのだらうなと思った。
10代のキースとミックの有名な再会エピソードで、駅でミックがマディ・ウォーターズのLP(ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ)を持っていたから話が盛り上がった、というのがあるけど、確かピーター・バラカン曰く、それ(マディのLP持ってフラフラしてんのが)は当時のロンドンでは相当ありえないことだったみたいなことを言っていた記憶がある(記憶が曖昧)。
現代で言うと、浜辺美波が渋谷駅で「ベスト・ヒット 美空ひばり」のLPを持ってうろついているのを、偶然、橋本環奈が見かけて意気投合する、みたいなものなのであらう(?)。結成するバンド名は「お祭りマンコ」といったところか(?)。

本作ではビートルズだけでなくプレスリーに関しても言及がなかった。ビートルズとプレスリーなしで語れるほど60年代のロンドンの一時期というのは凄まじくブルース一色で熱かった…ということに無理矢理して1人勝手に劇場で震えていた。1977年よりも前に、No Elvis, Beatles or… を地で行っていたのかも知れない。


最近しみじみ思うのは人間というのは、種をまいて芽が出るかだうかをひたすら願う生き物だということである。芽を出させるために毎日じたばたしている人もいれば、一切諦めて種に水をやらない人もいるし、勝手に芽が出ちゃったみたいな人もいる。
 何れにせよ丈夫な「根」を張らなくてはならない。根は他人からは見えない。でも自分自身だけは根があるのを知っている。感じる。
ロンドンの地下にあったイーリング・クラブはまさに各バンドにとって根を張る時期だったのでせう。根をうまく張れなくても、何度も何度もトライしてたらいつかうまくいくかも知れない。ブルースなんだものね。

その後イーリング・クラブは役目を終えるかのごとく閉店してしまったらしいけど、今もスーパーバンド達はそれぞれのブルースを演り続け、我々に慰めを与えてくれている。ストーンズなんて来年、新譜出すとかのニュースまであるぜ。本当、青春。


柴三毛 ブルースの一句
「ブルースを 忘れちゃいけない いつまでも」
(季語:ブルース→冬)
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