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ベルリン・フィルと子どもたちのblacknessfallのレビュー・感想・評価

3.8
おれは比較的色々なジャンルの音楽を聴く方なんだけど基本的にメタル、パンク系以外はだいだい付き合ってた女性の影響なんだよ。
一般的に男の方が自分の趣味を付き合ってる相手に押し付けがちな傾向がある中、おれは逆に押し付けられにいくタイプだから。

そんな流れでクラシックは全く門外漢だけど本作の主役の一人であるベルリン・フィルの指揮者サイモン・ラトルを知って、この人のファンになった。
ラトルがかっこいいところはクラシックの人でありながらノリがパンクスなところ。
ベルリン・フィルは指揮者を決める時に候補者をフィルの演奏者達が相談して決める方式。
ラトルが就任する時のドキュメンタリーがあって、その中にラトルとダニエル・バレンボイムの最終候補者二人が各々心境を語るシーンがある。
バレンボイムは、最終候補に選ばれて光栄です、伝統のあるベルリン・フィルの一員になるためにがんばります的な穏当なコメントだったに対し、ラトルは「まあ、彼等(ベルリン・フィル)が停滞を撃ち破って変化を求め新たな次元にいきたいのなら私を選ぶだろうhahaha」みたいな挑発的なことを上から目線で優雅にシニカルに言い放つ。こんな名門のオーディションで大胆不敵過ぎる態度取るとこに心臓を鷲掴みにされた。ジョニー・ロットンっぽい口調だったし笑
それもそのはず、ラトルはイギリスの労働者階級出身。クラシック界では異端と言っていい出自。

本作はそんなパンクなラトルが率いるベルリン・フィルが教育プログラムとして出身国も文化も違う8才から20才過ぎぐらいの少年少女250人がダンスでベルリン・フィルとコラボする企画の顛末を記録したドキュメンタリー。

「このままではクラシックは上流階級の慰みものに甘んじることになる」「しかしクラシックはそんなちんけな物ではでない生きた芸術としての可能性をこの企画で証明してみせる😏」と本作のラトルもパンクでかっこいい。クラシック界のど真ん中にいながら堂々のクラシック批判、ファンまで敵に回しかねない(いや、敵に回してる笑)辛辣な内容にしびれた!

このかっこいいステイトメントの後に子供達登場。いよいよラトルと子供達の交流が始まるのかと思いきや、出てきたのはダンス教師のロイストロンという渋い初老のおっさん。
ラトルは言うだけ言って全部ロイストロンに丸投げしてんだよ笑
以後、丸投げされたロイストロン先生と子供達のレッスンが続く。これが思いの外大変なことになっていく。選ばれた子供達はダンス未経験で家庭環境が不遇だったり精神的に難のある子達が多いので、これは無理なんでは😟?と不安になるぐらいみんなポテンシャルが低い。
ダンスは愚かまともに人前で自己紹介すらおぼつない子も。
なので頭をかかえるロイストロン先生なんだけど、彼は本当にめちゃくちゃ人格者で愛がある人で、そんな子供にしっかり向き合い時に優しく、時に厳しく、彼等の個性を観察しレッスンを進め、不可能と思われたダンスを完成させる。この過程は感動的。ロイストロンの人格に心を射たれる。
印象的だったのは数人の子供達のダンスを見るシーンで子供達はニヤニヤ照れ笑い浮かべるだけでなかなか動き出さない。その子達にロイストロンは「君らがそうやって笑って誤魔化すのは不安だからだ」「失敗することより誤魔化すことが恥ずかしいことなんだ、だから踊りなさい」と説く。
これが子供達の心に響いたようで以後彼等は積極的にダンスに取り組む。

このプロジェクトに参加してる子達は親始めとする大人から捨てられた背景がある子が多く、そういう子は自分が能動的に動くことに強い恐れを抱くという。「自分もそうだったから分かる」とロイストロンがカメラクルーに話す。
そんなロイストロンだからこの短期間に難しい子達に寄り添い、彼等に自信を持たせてることができたのだと分かり感動する。
本作はハッキリ言ってロイストロンと子供達の物語なんだよ!ラトルとベルリン・フィルは脇役なんだよ笑

全部完成してからラトルは子供達の前に現れて「君達とパフォーマンスできることが光栄だよ、がんばろう」とご機嫌に語る。「なんだ、このおっさんは❓️」と言った様子でポカーンとして聞いてる子供達の対比がおもしろかった笑
そりゃそうだよな、ラトル全然関わってないもん笑 でも、そういう俺様気質でノーテンキなとこも好き笑
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