ジェイコブ

オカルトの森へようこそ THE MOVIEのジェイコブのレビュー・感想・評価

4.4
かつてホラー映画「オカルティズム」をヒットさせて以来傑作に恵まれず、人気はすっかり落ちぶれてしまった映画監督の黒石光司。今一度人気を再燃しようと息巻く黒石のもとに、オカルティズムの熱狂的なファンである三好麻里亜から一本の動画が送られてくる。そこには、空から降る隕石と、謎の霊体ミミズに襲われる麻里亜の姿が映っていた。黒石はその動画の真偽を確かめるべく、彼に憧れ映画業界に入った市川美保を助監督に迎え、人里離れた山奥にある麻里亜の自宅を訪れる。黒石達は麻里亜の自宅から漂う異様な雰囲気や、情緒不安定な彼女にただならぬ事態である事を察知する。そんな中、黒石達の前に麻里亜の動画に出てきた謎の霊体ミミズが現れる……。
POVホラーのパイオニアである白石晃士監督最新作。配給がWOWOWということもあり、白石POVシリーズの中ではトップクラスに予算をかけている事が見て取れる作品。彼の過去作である「オカルト」「カルト」「コワすぎシリーズ」等、白石作品のファンであれば思わず顔がニヤけてしまうような場面もある。
コワすぎでは工藤Dのアクの強さが作品全体の魅力を引き出していたが、本作では可憐な見た目とは裏腹に、果敢に化け物や超常現象に立ち向かう市川に対し、ビクビクしてばかりで役に立たない黒石の対比が良い化学反応を引き起こしている。市川だけでなく、どうやったのかは謎だが、鍛錬で「気」を身に着けた文字通りスーパーボランティアの江野や、アベンジャーズクラスに強い名無し君など、本作を彩るキャラクターの魅力がPOVという枠の中で最大限に生かされている。ここまで来るともはや人間の方が怖くなっているが、もうこの三人がいるだけでも、ある程度の危機には対処できるの気がする(笑)
本作は、POVとしての質の高さは言わずもがなだが、彼のPOV作品には必ずと言っていいほど出てくる俺様系霊能力者、謎に強い人、そして所謂「ヤヴァい」人達など、個性的な登場人物達も魅力の一つ。特にヤヴァい人に関しては、本当にいそうなそういった方々を描かせたら白石晃士の右に出る者はいないのではないか(笑)
あとはPOVの鉄則である「誰がこの作品編集した?」問題だが、この点については明確にはされていないものの、クリアしていると見ることはできるため、POVとして考えたら「女神の継承」を上回っている。あの後世界がどうなったのかは、我々の知るところではないが、何であれあのメンツだったら誰かしらは生き残ってそうではあるから、市川or黒石君のどっちかが編集して世界に広めたと考えれば、まあ筋は通る。
本作は2時間とPOVホラーのジャンルで考えれば長編に入るほどの長さだが、まともな人間が誰もいないのではとすら思えるほどほぼ全員が常軌を逸してる登場人物達(笑)と、時折来る胸キュンシーン、さらに熱い展開と盛り沢山の内容なので、飽きずに見ることができた。個人的には、期待していたPOVホラー「女神の継承」でガッカリさせられていたので、ようやくちゃんとした「POV」が観られたと嬉しくなった。ただ、ホラー要素はそれほど強くないので、苦手な人にも勧められる作品。