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ロッキーVSドラゴ:ROCKY IVのYYamadaのレビュー・感想・評価

ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV(2021年製作の映画)
3.7
どちらが傑作?
【アナザー・バージョンの作品たち】

◆比較作品
・1985年『ロッキー4/炎の友情』 (91分)
・2021年『ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV』
  (94分)
◆オリジナルとの相違点
・「ロッキーⅢ」未公開シーン引用を含む42 分のシーン差し替え。
・「ロボット」登場シーンの完全除去
・4K デジタルリマスター×ワイドスクリーン×5.1chサラウンド

〈粗筋〉
・王者アポロ・クリードとの戦いを経て、チャンピオンとなったロッキー・バルボアの前にソ連から「殺人マシーン」イワン・ドラゴ が現れる。
・ドラゴとの激戦によって親友のアポロを失ったロッキーは、対ドラゴ戦のためソ連へ乗り込むが…。

〈見処〉
①スタローンが本当に伝えたかった新たな「ロッキー」
・『ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV』は、2021年に再編集により、リリースされたスポーツ映画。
・本作オリジナル版『ロッキー4/炎の友情』(1985)は、キャリアの絶頂にあったシルベスター・スタローン人気に相乗り、当時のロナルド・レーガン大統領に絶賛されるなど、シリーズ最大のヒットを記録した作品。
・しかしながら、批評面では「あからさまな反ソ喧騒の凡庸なストーリー」「延々と続くミュージックビデオ演出」「泥臭い人間性を失ったロッキー・バルボア」など芳しくなく、監督・主演を務めたシルベスター・スタローン、当時の妻であった助演のブリジット・ニールセンは、『ランボー/怒りの脱出』(1985)、『レッドソニア』(1985)と併せて、第6回ゴールデンラズベリー賞10部門中8部門にノミネートされ、5部門を受賞するという不名誉な記録を残すこととなった。
・「今よりも薄っぺらい当時の自分が手掛けた作品を、登場人物の心を中心としたドラマに置き換えたい。何故このシーンを使っていない?当時の俺は何を考えていたんだ?」と長い期間、本作を作り直したいという想いを持っていたスタローンは、2020年のコロナ禍で余暇が出来た機会を活用。未使用シーン、音声トラックを徹底的に振り返り、本作を再編集のうえ作品化した。
・本国アメリカでは、2021年11月に一夜限りの特別上映として公開されたが、日本では、「オンデマ配信予定なし」のプロモーションを加え、2022年8月19日より劇場公開した。

②ふたつの「続編」
・興行面の成功に反し、スタローン・バッシングの契機となったオリジナル版「ロッキー4」の批評面の反省を踏まえた「原点回帰」として、シリーズ1作目のジョン・G・アヴィルドセン監督、シリーズ3作目までのテーマ曲を手掛けたビル・コンティ、老トレーナーの作中キャラクター、ミッキーを復帰させ、集大成作品として製作された『ロッキー5/最後のドラマ』(1990)。
・しかしながら、リングに上がらないロッキーに興行・批評面ともに惨敗。『ロッキー4/炎の友情』に続き、ゴールデンラズベリー賞10部門中の7部門にノミネートされ、汚名返上には至らなかった。
・但し、黒歴史化しかねない本作であったが、ロッキーJrとの親子関係、(未公開シーンによる)1作目に登場したリトル・マリーの再登場など、後続のシリーズ作品に重要な要素を残した。
・さらに2018年には、スピンオフ映画『クリード チャンプを継ぐ男』の続編として、『クリード 炎の宿敵』が公開。ロッキーと対戦したイワン・ドラゴと、その息子のヴィクター・ドラゴが登場させ、ドラゴの妻役としてブリジット・ニールセン再登場。『ロッキー4/炎の友情』にて消化不良であったドラゴの物語を見事に回収している。

③結び…比較評価
◎:「別人のようにカッコ良すぎたロッキーの補正」「冷血マシーン、ドラゴの人間味」など、ロッキー、エイドリアン、アポロ、ドラゴの各キャラクター描写が深く描かれ、それぞれの葛藤に共感出来るのは「本作」
◎: とくに新たに加えられた「ロッキーとエイドリアン」「アポロの葬儀」は、オリジナル版に負けない名シーン。
○: 試合シーンを厚くした「アポロvsドラゴ」、力量差を補正し殺人マシン感が薄れた「ロッキーvsドラゴ」。本作シリーズファンは、追加シーンに興奮を覚えずにはいられない。…が、ストーリー展開を考えると、オリジナル版の編集テンポが勝ると思う。
○: シリーズ作品で唯一、ビル・コンティによる楽曲が使われていなかったオリジナル版に対し、本作では『ロッキーⅢ』の回顧シーンを中心にテーマ曲も登場している点は嬉しい。
▲: 差し替えられたシーンの大半は、オリジナル版に及ばない。とくに尺を伸ばしたジェームズ・ブラウンの「リビング・イン・アメリカ」は、JBの口と合わない間延び映像。映画の世界では「長は短に勝らない」。
▲:「ロッキーの白タオル投入の葛藤」「ロボットと共に強制除去されたロッキーJr」「ブリジット・ニールセンの悪女ぶり」シーンのカットにより、シリーズ後続作品への伏線が弱まっている。『クリード 炎の宿敵』を楽しむには、オリジナル版のクセの強さが欲しい。
▲: 「人間ドラマの強化」のわりには「延々と続くミュージックビデオ演出」は解消されていない。初めてロッキーシリーズを鑑賞する方には、オリジナル版『ロッキー4/炎の友情』のテンポの良いカット割りのほうが、丁寧にストーリーを追える。本作は、オリジナル版鑑賞者への「ご褒美作品」だといえる。
×:「アイ・オブ・ザ・タイガー」楽曲挿入シーンの大胆なら変更、「アポロ再戦に至る冒頭場面の展開」「キレるゴルバチョフ」…。明らかにオリジナルのほうが良い。
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比較鑑賞としては、まさかのオリジナル版『ロッキー4/炎の友情』が勝る自己評価となりました。

しかしながら、劇場の大スクリーンで見る、ロッキーの勇姿と、サバイバーの楽曲には、勇気を貰えることは間違いありません。
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