ソラ

映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)のソラのレビュー・感想・評価

3.8
映画「ドラえもん」第42弾。
脚本が『リーガル・ハイ』や『どうする家康』等の数々の作品を生み出した尊敬する古沢良太氏なので鑑賞。
大人になって初めてドラえもんの映画を見たけど子どもの頃に見ていたあの世界は現在も失われておらず、立ち戻る場所があることに感心した。
感動する展開もあって意外に泣ける。

ひょんなことから理想郷伝説を知り、のび太が発見したと言う理想郷を仲間達と探すというお決まりの流れ。

彼等が発見した「パラダビア」(パラダイスとユートピアの造語)という場所は、一日中太陽光を浴び続けられる人工太陽がある。さらに争いや諍いがない為勉学、運動、人間関係の全てが良好になる。
自分の体格や健康を合わせた食生活や夜8時に寝て朝は5時に起きるバランスの取れた正に理想的な環境。

意外と社会派のテーマを扱うことの多いドラえもん。今回も某宗教を彷彿とさせる理想郷を主軸とするストーリーで現代的な恐怖に踏み込む大人でも十分楽しめる作品だった。
ユートピアだと思われた場所がディストピアだったという展開はこの手の話にはよくあるが、そこを表現するにあたってレイ博士とソーニャ、のび太とドラえもんの対比構造はよくできている。
ドラえもん映画の醍醐味であるアクションシーンはやや不足していたように思う。

心を無くせば競争心や向上心がなくなり、争いが生まれない。その環境に順応していくにつれて心からの感情表現は蓋を閉ざし個性は失なわれていく。
序盤から張り巡らされる伏線の数々やその回収される心地よさは古沢脚本が成せる技。

人間には、必ず欠点がある。自分自身の欠点を認め他人の欠点を把握して互いに補完しあうことで人間を愛する事ができるのだろう。
心があるから私たちは笑い、泣き、怒ることで愛を育む。それでいいじゃないか。

この映画のメッセージ性である多様性。完璧じゃなくてよい、そのままで素敵。色んな人がいるから世界は面白いという考えは理解できないでもないが、強く打ち出しすぎてそれもまた理想ではないかと思ってしまった。

のび太や小学生たちはこんな理想郷があれば行ってみたいと思うはず。 そして、その地を快く思い住む者も必ずいるはず。もう少し奥深い哲学的な話を古沢脚本で見てみたかった。
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