むらむら

ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インドのむらむらのレビュー・感想・評価

5.0
「ありのまま……早朝の新宿バルト9で起こったことを話すぜ……。

俺は、ビートルズのドキュメンタリーを観に行ったと思ったら、いつのまにか知らないオッサンの自分語りを聴かされていた……。

何を言ってるのか、わからねーと思うが……。頭がどうにかなりそうだった……。

とにかく、恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」

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インドを訪問してたビートルズのメンバーと偶然遭遇した青年が、当時の軌跡を辿るドキュメンタリー。

正直、感想はこれで終わるのだが、あまりにムカついたので、以下、被害者を増やさないための補足をしておきます。

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現在80歳になろうとするポール・サルツマン(以下、オッサン)は、23歳のときに訪問したインド・リシュケシュの僧院(アシュラム)でビートルズのメンバーと出会って、同じ僧院で過ごす。

僧院ではビートルズのメンバーから「カメラマンになって」と頼まれ、自分のカメラも含め多数の写真を撮影。当時の記録を元にしたのが本作。

その間、わずか8日間。

たった8日間、同じ宿泊施設に泊まっただけで映画作るの、厚かましいにもほどあるやろ……。だったら俺も、車の免許合宿で16日間、濃厚な日々を過ごした秋田の自動車教習所のオッサンとの思い出で映画作れるやん。

そんな危惧を胸に鑑賞したら、思ってた以下の出来だった。

特に俺が気になった点。

1.オッサンのあやふやな記憶

推測だが、オッサンがこの8日間(Eight days a weekにかけてるわけじゃないよ)でビートルズに会ったのは10回にも満たない。

それを、さもマブダチ感だして語ってる。

例えば、道端でフラッとジョン・レノンに遭遇して、オッサン(当時は20代前半)が「彼女と振られた」話をしたときの回想。

「彼女に振られたばかりだ、ってジョンに言ったら、ジョンは『新しい恋なんてすぐ見つかるさ』って励ましてくれたんだ。あとで知ったんだけど、ジョンは既にヨーコと出会っていた。つまり、ジョンは、当時の自分のことと僕を、重ね合わせてたに違いないのさ」

……。

それってあなたの感想ですよね?

記録には写真しか残ってない。本人は既に他界してる。本当にそんなことを言ったのかどうか誰にも分からない。

そんなんやったら、俺だって、

「教習所のオッサンは、俺の華麗なドライビングテクニックに魅了されて『むらむらくん、キミは未来のF1ドライバーだ』とベタ褒めだったぜ」

とか言えるやん。

他にも劇中で「眼の前で『オブラディ・オブラダ』が作られていった」みたいな発言もあるけど、これも証明する人はいないよね。ポール・マッカートニーには確認したの?

さらに、たちの悪いことに、当時の模様を、コマ割りアニメみたいなイラストで再現するもんで、まるで、この映画での記述が、ホントのことのように錯覚する。フェイクドキュメンタリーに洗脳されてる気分。

2.オッサン旅行記

たった8日間の話だとネタが足りないと思ったのか、「ビートルズ・イン・インド」って言ってるわりに、なぜかアメリカからスタート。

オッサンが当時、自分探しにインドへ行ったということが語られ、オッサン、アメリカを出発。

西海岸を発ったオッサンは、リバプールにてビートルズの博物館「ビートルズ・ストーリー」を訪問。その後、インドのムンバイに立ち寄って、ジョージ・ハリスンが「Abbey Road」収録曲の一部を録音したというスタジオの前で記念写真。ニューデリーを経てリシュケシュ。

「この『ビートルズ・ストーリー』では、ビートルズの歴史が学べますね」

「ほほう、ここが、『The Inner Light』を録音したスタジオのビルですか」

じゃねーよ。観光ビデオじゃないんやで!

オッサンと同行するのは、ビートルズ研究の第一人者マーク・ルイソン(以下、学者)。さすが学者だけあって、マニアックな知識をちょこちょこ入れてくるのだが

学者「インド訪問中にビートルズは30曲を作曲したと言われているが、本当は48曲だったという説もある」
オッサン「ふむふむ、どうやら48曲が正しいようですね」
学者「そのとおりだね」

みたいな会話、居酒屋の端っこで生ビール片手にやってればいいんじゃないかなぁ……。

唯一笑ってしまったのが、当時のレコーディングに参加したバーンスリー(横笛)奏者のハリプラサード・チョウラシアへのインタビュー。

オッサン「当時のジョージとは、どんな話をしたんですか」
チョウラシア「いやー、もう忘れちゃったね」
オッサン「……」
チョウラシア「……」
(チョウラシア、おもむろに横笛を吹き始める)

この気まずい沈黙、インタビューとして成立してないやろ……。

3.オッサンの自分語り

しかも、このオッサン、気合入りまくってるのか、ちょっと気を抜くと、「隙あらば自分語り」を噛ましてくる。

「俺は父親と確執があったから、インドに向かったんだ」

「インドに到着したら、恋人から別れの手紙が届いた。悲しかったね」

そんなの、知らんがな……。

しかも娘まで登場して、

「父さんがビートルズの写真を見せてくれたときはビックリしたわ!」

みたいなコメントして、オッサン照れる。そんなん、近所の人集めて上映会しろよ!

4.ちょっとだけ良かったところ

なんかボロクソ書きすぎたので、良かったところも書いておく。

まず当たり前だけど写真。都会の喧騒から離れ、初めての本格的なオフとでも言えるインドの滞在では、ものすごくリラックスした表情のメンバーたちを見ることが出来る。

次に僧院の内部の解説。一時期廃墟になっていたところを、いまは観光地としてリノベーションしている最中らしい。

「Dear Prudence」のプルーデンスさんが閉じこもってた部屋はココだよ、そっちにはビーチボーイズのマイク・ラブが泊まってたんだよ」

って解説は素直にフムフムと思った。まぁ、現地いけば聞ける話ではあるが……。

あ、ビートルズの「The Continuing Story of Bungalow Bill」のモデルになったというビルさんのシーンも、インドあまり関係ないけど面白かったかな。歌詞でジョン・レノンに「インドまで来て虎狩りしてる野蛮なアメリカ人」ってボロクソ叩かれた親子の子供の方。

「当時は若かったけど、あれ以来、狩猟は辞めたんだ」

って言い訳してるのが微笑ましい。現在はハワイ在住で、環境写真家をやってるとのこと。

5.ビートルズの曲はどこ?

そして、ここが一番大事な点。

権利の問題なんだろうけど、ビートルズの曲は一曲たりとも使われなかった。

唯一、途中、前後の脈絡なく出てくる「ビートルズ大好き」ってアメリカの作曲家が、ピアノで「Something」を弾き語るのみ。

しかも弾き終わって一言。

「いい曲ですよね」

いや、それ、知ってるから!

本人不在。曲皆無。

この作品に比べたら、本人も登場して、ブルース・スプリングスティーンを始めとした各回の著名人がビーチボーイズへの愛を語りまくる「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」のほうが10000倍素晴らしい作品だった……。

6.最後に

デヴィッド・リンチが

「おお! 8日間もビートルズと一緒だったのか! 凄いじゃないか!」

って、滅茶苦茶ハイテンションでインタビュー受けてたけど、エンドロールみたら、お前、この作品のプロデューサーやんけ、ってガクってなった。

フォローしてるリョウさんとばぐおさんが奇しくも「ビートルズ詐欺」映画って書いてたけど、まさにそれ。「出演」の一覧に、ビートルズの4名の名前がなかったことで気付けなかった俺のバカバカバカ!!

ってかレビュー50件くらいしかないのに、2件で「ビートルズ詐欺」って書かれるの凄くね?

まぁ、自分もそう感じたし。わざわざ三連休の早朝の新宿まで足を運んで、知らないオッサンの自分語りを聴かされる俺って一体……。

というわけで、見知らぬオッサンの自分語りが好きな人にとっては★5の作品。それ以外の人には勧めません。

(THE END)
むらむら

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