木蘭

地獄の木蘭のレビュー・感想・評価

地獄(2009年製作の映画)
3.3
 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が、当時26歳のロミー・シュナイダーをヒロインにすえて制作を試みたものの、未完で終わったサスペンス映画『地獄(L'Enfer)』を・・・遺された13時間のフィルムと、制作関係者のインタビューや脚本の朗読劇を交えて・・・明らかにしていこうというドキュメンタリー。

 観客は、この幻の作品の全体像が明らかになるのでは?なにより妖艶なロミーの姿が沢山観れるのでは?と期待して足を運んだと思う。僕もそうだ。
 残念だけれども、余り期待し過ぎると肩すかしを食うかも知れない。

 実は鑑賞中、寝不足の上に、マスク着用の酸欠で、もう眠くて眠くて、時々意識が飛んでは、ハッ!と我に返る・・・の連続。その度に画面では大抵、男優が走っているか、ロミーが水上スキーをやっている・・・それぐらいフィルムがないのだろう。
 それもそのはずで、潤沢な予算を良い事に監督がリテイクを繰り返し、余りの偏執に俳優は逃げだし、監督は不眠症と心臓発作で倒れ、遂にはロケの途中で企画が頓挫してしまったので、ロケ撮影自体中途半端だし、その後に予定されていたスタジオ撮影は行われていない。
 たった13時間の音声無しのフィルム(テスト撮影を含む)と脚本しか残っていないのだ。

 それ故に、ドキュメンタリーの半分以上は、インタビュー、朗読劇、そしてスクリーンテストのフィルムといった素材で繋いでいる。

 ただ貴重な本編画像は素晴らしい。
 幻想のシーンはカラーで、現実のシーンはモノクロで撮影されいるのだが、そのどちらも雄弁に映像が語りかけてくる上、カラーのシーンは寝落ちした僕をハッと我に返らせるほど蠱惑的で魅惑的。
 ああ、これが完成していれば、どれほどの傑作になった事か・・・と思いつつも、過ぎたるは及ばざるが如しだな・・・と感じた。

 ドキュメンタリー作品としては、遺された貴重な本編映像をタップリ見せたい・・・という意図は分かるし、そこが胆なのだが、それ故にテンポが悪くなってしまっているし、全体として凡庸で余りスリリングな作りには成っていないのが残念。
木蘭

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