延々と歩く

地獄の延々と歩くのレビュー・感想・評価

地獄(2009年製作の映画)
3.6
 未完におわったフランス映画「地獄」についてのドキュメンタリー。

 「恐怖の報酬」「悪魔のような女」を成功させ本国では最も予算の使える監督だったアンリ=ジョルジュ・クルーゾーが、凝りに凝りまくった結果スタッフはブチ切れるわ主演俳優はトンズラするわ、挙句に本人が心臓発作で倒れて撮影が中断・放棄されるまでを描く。

 当時撮影されたフィルムをみると、悪くないんだよね。「地獄」は妻の不貞をうたがう男の話であり、嫉妬と狂気にさいなまれる苦しみがよく出ていたと思う。カラフルな照明は今の感覚からしてもオシャレだし、「燃ゆる女の肖像」で有名なアデル・エネルが出演したミュージック・ビデオ「De mon âme à ton âme」でも引用されていた。

 撮りためた分をサッサとつなげて納品しちゃえばいいじゃ~んと簡単に言えちゃうけど、監督は納得せずに延々と作業をつづけ、スタッフの証言によれば「カメラの横に立ち尽くして、もはや何をすればいいのか分からなくなっているような」状態にまでなってしまう。

 つまらない感想だけど「凝りすぎはアカン」という言葉しか出てこない。完璧主義のクリエイターと翻弄される周囲というのは映画にかぎらず常に語られてきた裏話で、日本でも最近は庵野秀明氏の振る舞いなどがニュースになっている。

 その庵野氏も「シン仮面ライダー」の興行・批評ともに鈍い結果とNHKのドキュメンタリーで撮影スタッフを無理難題でふりまわす…いや無理も何にも言わないから余計にマズい様子をバラされてから潮目が変わった気がする。割とピュアな擁護派閥を持つひとだったのにその層が消え去った感じ。

 metooやポリコレ、パワハラ追及の流れが生まれてもう何年もたつし、クリエイターの苦しみは理解も同情もしたいけど、それにしたって限度がある…という感じでしょうか。
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