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そばかすのMのレビュー・感想・評価

そばかす(2022年製作の映画)
5.0
鑑賞後、こんなにも気持ちが軽くなる映画体験は久々だった。
前田敦子演じる世永真帆や、その他の登場人物にも自己投影する瞬間はあったんだけど、"わたし"なのかもしれない蘇畑佳純という人物が、現実世界で息づいているんだと思わせてくれた三浦透子に感謝しかない。

LGBTQ+の中でもアセクシャルは認知度が低く、可視化もされにくい。
「まだ好きな人と出会ってないだけ」そうやって恋愛規範を押し付けることが暴力的であることに無自覚なまま、心を踏みつけていく人が世の中の大半だろうと思う。
蘇畑も、そのような地雷を回避するために恋愛規範に則った言動をするんだけど、嘘を重ねることで自分の心が消耗していくところとか、表層的にしか共感できないため別の話題にスライドしようとするところとか、あまりにリアルで居た堪れなくなった。
けれど同時に、その居た堪れなさを抱えた人物が(わたしやわたしの他にも)いるということに気づいてもらえてる気もして、その丁寧な描き方に冒頭から嬉しくなった。

蘇畑に恋愛規範を押し付ける役割として家族の存在があったけど、母も妹も若くて、親の結婚が早いと子も早くから結婚を意識するようになるので納得感はあった。
だけど妹の睦美がまあ地雷を踏み抜いていく人物だったので、蘇畑はよく耐えてこられたなと、あれから仲直りはできたんだろうかと気になっている。
誰もが他人と比べようのない葛藤を抱えているのは承知で、恋愛結婚ができる立場とそもそも恋愛感情が湧かない立場は並列に比べられないし、理解してるポーズをとって他者をラベリングすることはあってはならないこと。
老後を心配するあまり結婚を催促してくる蘇畑の母や、理解していると口では言うもののまるで理解しようとしない世永の父などノイズとなる人物はたくさん出てくるものの、謎に上から目線な妹が一番堪えたかもしれない。

ただ、蘇畑と今のわたしの違うところは、蘇畑は寂しくないと言うところ。
友達は恋愛して相手を優先して結婚して疎遠になっていくのに、それを喜ばしいことと言う。
わたしは正直寂しく思ってしまうので蘇畑はまっすぐで強いし、だからあんなに人が集まってくるんだと思った。
そう、蘇畑の周りには古くからの友達も新しい出会いも集まってきていた。
恋愛しなくても魅力的な人はいる、そのメッセージが後味引くようにずっと残って離れない。
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