しの

そばかすのしののレビュー・感想・評価

そばかす(2022年製作の映画)
2.5
この話に救われる人がいるのは分かるし、その人には何の罪もないが、自分からすればこういうアプローチすら「古臭い」と感じる。頭で考えたような話だなとしか思えなかった。

リベラルなことやっているようで、蓋を開けてみるとその題材でまだこんな描写しかできないのか……とむしろ現実への落胆を覚えるという意味で、自分のなかでは『彼女が好きなものは』『ミッドナイトスワン』などと同じ箱に入る。はやくこういう映画すら古臭いと一蹴できるような社会になって欲しいと願うばかりだ。

単純に、エピソードやセリフの「頭で考えてる」感が物凄いことがキツい。「このシーンは合コンで場違い感を出すシーン」「このシーンは幼稚園児の進んだ恋愛観を見せて主人公を揺るがすシーン」「このシーンは男友達だと思ってた相手に迫られて破綻するシーン」と、全てにおいて作り手の意図が透けて見えてしまう。目的が先行してるから、そもそも言動として不自然になるのだ。その観点でいえば、初っ端の合コンで主人公が発する「あー……うんそうね」からして信用ならないなと思ってしまった。演技指導があからさますぎる。他にも、あの場で『宇宙戦争』のトム走りについてあんなにいきなりベラベラ喋るわけないだろとか、不自然さを指摘しだしたらキリがない。

この目的先行の作りの痛々しさが極に達するのが紙芝居のくだりだろう。そもそも「シンデレラって男目線でおかしいよね?」を何も考えず声高に謳うことの勘違いっぷりは既に4年前にディズニーが『シュガー・ラッシュ:オンライン』でやらかしたことだ。それは百歩譲って見逃すとしても、その主張をああいう方法で表明すること自体になんの疑問もなさそうな辺り、それ以前のところで勘違いしていると思う。「声を上げられないマイノリティ」の話としてあのエピソードを描いてはいるが、そういう問題じゃないだろう。一方、「声を押しつぶすマジョリティ」として登場させている議員の造形もタチが悪い。「”多様性“……でしたっけ?」みたいないかにも悪役らしいセリフを言わせているのもまた勘違いしている。

これは作り手が無理解であるというより、これほど大袈裟に描きたくなるくらい今の社会にとって「多様性」というものが未だにセンセーショナルなものであるということの証左なのだと思う。その勘違いっぷりにようやく追いついた、というのがこの国の現在地なのだ。そう言う意味ではある種順調だとも言えるが、道のりは長い……。

また展開の作り方も、色んなキャラクターが主人公に声をかけてはエピソードが始まり……という工夫のなさが気になる。せめて主人公が実家に帰ってくる所から描けば、「窮屈だと思っていた地元にも実は色んな価値観の人がいたということを知る旅」みたいな立て付けにできたのではと思う。そして再びどこかへ旅立つ、みたいな構造にすれば、主人公の言う「逃げてもいいんだ」という主張を強調できただろう。ただ個人的にはこれでも不十分で、本当なら「それを”逃げ“と考えること自体違うんだ」という前向きな肯定の話にして欲しいところ。

だからあのラストでもまだ保守的に映ってしまうのだが、とはいえ「同じような考えの人がどっかに生きてるならそれでいいじゃん」という姿勢自体は肩の力が抜けていて凄く良い。やはり問題はあの「走り」含めて取ってつけたように感じてしまうことだ。自分に言わせれば、そんなキャラクターなんて序盤〜中盤で出して、以降は仲良くトム走りについて語る場面を延々と見せた方が、センセーショナルに多様性を叫んだり心情を叫ばせたりするより、よっぽど力強く救いのある話になるだろうと思うのだ。
しの

しの