じゅ

そばかすのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

そばかす(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

三浦透子さんって歌うんだって思って行ってみた。めちゃめちゃいいんだが。『風になれ』って配信とかされてるのかな。
てか『ドライブ・マイ・カー』の西島秀俊という圧倒的強者に紛れて気づかんかったけど三浦透子もめっちゃ煙草が似合う。まじでかっけえ。あと、佳純ちゃんが思う最悪の7倍最悪引き当て子ちゃんに次の合コンに誘われたときの「ほんっとごめん!」のとこ体やわらか。

まほちゃんとよく行ってた喫茶店のテーブルのボタン何?古いゲーセン感。
あといつか行ったジャック・アンド・ベティっぽい劇場が出てた気がする。エンドクレジットで確認しとこうと思ってたけどその辺見るの忘れてた。ラストカットと主題歌があんまりにも良かったもんで。

てか合コンとかお見合いの気まずさ演出が上手すぎるんだが。俺顔真っ赤だったかもしれん。きつかったー。


で本作の内容。
蘇畑佳純(三浦透子)は生まれてこの方30年、恋愛感情とか性欲というようなものを持ったこともなく独り身で暮らしている。母(坂井真紀)が勝手にお見合いの場を設定して知り合った小暮(伊島空)とはその後一方的に彼から向けられた恋愛感情が原因となり別れる。偶然再会した同級生の八代(前原滉)の誘いで転職した保育園でデジタル紙芝居の製作を頼まれ、これまた偶然再会した同級生の世永真帆(前田敦子)と自分たちなりのシンデレラの物語を製作して披露するが、園児の保護者らを困惑させ、選挙の挨拶回りに来ていた真帆の父に苦言を呈される。世永とは意気投合して一緒に暮らす話になったが、世永が東京で付き合っていた男性とやり直して結婚することになったため、ルームシェアの話は立ち消えになる。佳純の妹の睦美(伊藤万理華)が夫に浮気の証拠を突き付けて泥沼になった際に流れで妹からレズビアン扱いを受ける。でも、新人保育士の天藤光(北村匠海)は佳純のシンデレラを見て共感し、自分と同じような人がどこかにいるとわかってよかったと佳純に語った。


この天藤くんの言葉を聞いて佳純が笑顔で走り出すラストカットは、第一印象ではめっちゃ良かったんだけど、じわじわ複雑な気持ちになってきた。
カメラマンさんも自分の脚で走って撮ったのかな?爽やかでいい躍動感だった。これは俺の中で確か。

本作って、他人から見た孤独を孤独と思わん人が世間体とか押し付けを全部突っぱねて「べつにいいだろ」って肯定する物語と思った。でも、結局最後の最後に"出会い"が生じてしまってるんだよな。孤独は恥ずかしいとか、孤独はは文字通り淋しいとか、そんな埃を被った重たい価値観と蘇畑佳純は闘ってたのに、その佳純が孤独でなくなってしまった。それまでの佳純は孤独な(あるいは孤独とされる)人たちの体現者で共感の鏡みたいだったけど、これじゃあなんというか梯子を外されたような感覚。
それとも天藤くんの「自分と同じような人がどこかにいる」との台詞があのラストシーンの核なんだろうか。いやいくら北村匠海といえどそうは思えん。(個人の感想)


あと、責任とか無責任とか、誰のためとか自分のためとか、一体なんなんだろうって思った。感覚的すぎて自分で何言ってるかわかんないな。

睦美は、できればお姉ちゃん(佳純)みたいに何も関係ないみたいな顔して生きてたかったとかそんな話をしてたっけか。でも悔しいけど世の中そんなふうにできてない、と。
あのくだりは佳純が小暮と別れて帰ってきた後のことだったか。自暴自棄っぽいかんじになった佳純が「誰とでもいいから結婚すればいいんでしょじゃあ次の人連れてきて」と母に言い放った後。
世の中と言ったのは、つまり親御さん、特に母のことを指してたのかな。べつに外から見りゃ他人が結婚してようがしてまいが関係ないし。睦美は世の中の価値観と擦り合わせて結婚する道を選んで親を安心させて子としての責任を果たしたつもりなんだろうか。
でも、その前に「ちゃんと好きになった人と結婚しなきゃ意味ない」みたいなこと言ってなかったっけか。睦美は夫の眉とか顔のほくろが好きとかなんとかって言ってたけど、つまるところ彼女が結婚したのには、ちゃんと好きになった人と一緒にいたい無責任もあっただろう。
責任とか人のためとか言うその裏には、自覚するにせよしないにせよ、無責任とか自分のためとかって心があるんだろうなと感じた。

じゃあついでに言うと、お母さんが執拗に佳純を結婚させたがったのも、佳純の将来のことを思ってというのも確かにある裏で自分本位な気持もあったのだろう。
娘といえど自分とは違う人間だからな。自分とは違う人間の心を知るのなんて無理中の無理だし、正反対の価値観を理解できないときにそこで価値観の押し付けが始まる。


お父さん(三宅弘城)いい役だったなあ。うつ病大変だったのね。
佳純が小2で始めて音大で挫折したチェロをずっと手入れしてたんだって。おい素敵かよ。

佳純が世永の結婚式で友人代表のスピーチ代わりにチェロを演奏して、それでチェロは最後にするからもう手入れはしなくていいよって。そんなん泣くじゃん。
チェロの手入れはお父さんが彼なりに感じてた責任みたいなもんだったんだろうな。いつまた弾きたくなってもいいようにって言ってたか。
その責任から佳純がもういいよと解き放った。佳純はもうお父さんが思うより自律してるんだなとか、チェロをねだった子供の頃からはとっくに成長してるんだなとか、お父さんが何を感じたかは知らん。でも何にせよ次の日めっちゃ元気に朝食食ってて最高だった。一応うつ病患者だし、自分なりの責任から解き放たれた瞬間に首括ってたらどうしようとか思ってたからなおさら。

まあ、その他人への責任感、肩から下ろしてもいいんじゃないですかってことなのかな。
責任感で他人に制約を与えるよりその責任感から自由になった方がむしろいいこともあるのかも。本作だと世永の自分勝手(中学の担任が嫌いなこととか政治屋の父親への怒りとか)が佳純に響いたり助けになったりしてる辺りからもそんな雰囲気を感じる。


あと三浦透子さんが屋上で一人で煙草吸ってるだけの30分ショートフィルム待ってます。


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【2022/01/09追記】
三浦透子のYouTubeチャンネルあったから見てみたけど結構しっかり音楽活動やってるのな。てか『天気の子』でも歌ってたのか。


あとラストシーンについてはちょいちょいやってた一人で浜辺に座るやつで締め括ってくれてたらもっと好きだったかも。


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【2023/01/18追記】
『FISHANDCHIPS』『おちつけ』『波がたった』『蜜蜂』辺り特に好き。
てか『ASTERISK』が丸ごと好き。
じゅ

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