シズヲ

そばかすのシズヲのレビュー・感想・評価

そばかす(2022年製作の映画)
3.3
他者に恋愛感情を抱けないアセクシャルの女性の話。しかし作中ではその辺りの固有名詞を出すこともなく、“生きづらさを抱えたマイノリティの話”としての普遍性を与えようとしている印象。こういう設定はその当事者の実態を曖昧にしている感も否めないが、意図自体はわかる。三浦透子のナチュラルな演技は蘇畑さんというキャラクターに間違いなく息吹を与えていて好き。蘇畑さん、よりによってモテるのが不憫になる。

蘇畑さんの葛藤、正直都会に行くかSNS使うかである程度マシになるような気がしないでもない。恋愛至上主義の気風は確かに相当根強いが、少なくともあれだけ“結婚”を周囲から押し付けられるのは間違いなく環境が悪すぎる。何だかカリカチュアを感じすぎて、これは本当に現代の話なのかと一瞬疑ってしまう。令和世代の人間がサザエさんの世界観に放り込まれたような奇妙さを感じてしまう部分はあるけど、冒頭の合コンの下りなど要所要所で一応の生々しさはある。そんな中で押し付ける訳でも過度に心配する訳でもなく、ただ静かに寄り添ってくれるお父さんとのやり取りが印象深い。終盤にお父さんが号泣する瞬間や、家族みんなで片足立ちで食事して思わず笑い出すような場面が好き。

テーマの意欲性は伝わってくるけど、主人公の生きづらさを描くために戯画的な構図をぶつ切りに並べ過ぎじゃないかとは思った。ラーメン屋の兄ちゃんや政治家の親父なんかは本当に場面のための登場人物でしかないし、そういう面々がポンと置かれて役目を終えたらさっさと消えていく印象。主人公の妹ですら終盤に役割を果たすと以後のシーンからフェードアウトする。シンデレラ批判も些か直情的で単純過ぎるというか、“保守的な価値観が根付く社会を否定すること”と“時代性を伴った古典作品を槍玉に上げること”は絶対に違うと思う。

家族を中心とする“無理解な人達”の書き方など、全体的に何処かあざとさを感じる部分が大きい。友人を演じるあっちゃんなんかは間違いなく好演ではあったものの、流石に作品のテーマをあからさまに大声で語り過ぎてて些か鼻についてしまう。というか重要キャラっぽいあっちゃんですら作中の役割をこなすために突然出てくる印象が否めない。とはいえ彼女が父親に対して感情をぶちかます場面があったからこそ、蘇畑さんが家族にキレる下りへと繋がったのも分かる。

蘇畑さんは基本的に“海で黄昏れる”以外の趣味が何も見えてこなくて(せいぜい映画の話くらい)、そういうところを周囲から過剰に心配されているように見えなくもない。尤もそういう姿こそが彼女の“抑圧”の象徴であり、終盤のチェロが“ありのままの本心”の解放を示してることも伝わってくる。あっちゃんとの関係性も唐突に終わってしまったけど、その上で彼女を前向きに祝福できたことには温もりを感じる。そして『宇宙戦争』のトム・クルーズを引用して、ラストの受容と疾走にカタルシスを見出してくる構図も憎めない。爽やかな主題歌の余韻も好き(主演の三浦さんが上手くて凄い)。

映画を見終えて「なんで人を恋愛や性愛を望むのか」を考えたけど、社会性とかを抜きにして究極的に言うならば「人は孤独で、いつか死ぬから」だと思ってしまう。
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