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ナショナル・シアター・ライブ「プライマ・フェイシィ」のwakiのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

ジョディ・カマー演じるテッサは若く優秀な法廷弁護士。血のにじむような努力によってトップクラスへと昇りつめるが、ある日予期せぬ状況で性暴力に遭ってしまう。有罪に持ち込むことが難しいことを弁護士として理解しながらも、彼女は警察に被害を訴えるが…。

同じく性暴力を扱った『最後の決闘裁判』でも勇気ある被害者を演じたジョディ・カマーの一人芝居ということで、かなり期待して見に行った。
主人公のテッサは被害に遭うまでは法の公平性を信じ、性犯罪者の弁護もたくさん手掛けるような人物だったが、自身が被害者となったことで男性主体で構成された家父長的な現行法の問題と、法律と社会が抱える矛盾に直面することになる。

序盤はテッサが仕事へのやりがいを語るコメディチックなシーンが続いて笑いを誘うが、それが後半の弁護士としてのプライドと法律への信頼を失ってしまった彼女の悲痛をより切実にしており、見ていてかなり苦しかった。
終盤の裁判のシーンはこの作品の最大の見せ場で、核となる場面だ。その重要なシーンで暗闇の中、テッサが証言台に立った瞬間、私はこの作品が一人芝居でなければならない理由を理解した。同時に、完敗だ、これは傑作以外の何物でもないと打ちのめされた。

テッサが予期していた通り、訴えは退けられ被告の無罪判決で舞台は終わる。彼女は最後まで一人だったが孤独ではなかった。被害に遭った女性たちのために闘い、彼女たちと共に在った。
テッサは予備尋問のときにこう言う。
「見てしまったら、見なかったことにはできない」
私たちはこの物語の、この裁判の傍聴人になった。もう二度と、性暴力を許し続ける法律の矛盾から目を逸らすことはできない。個人が法律を変えることはできなくとも、性暴力を許さないと言い続けることは誰にだってできるのだから。
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