しの

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのしののレビュー・感想・評価

3.2
映画としてはそこまで面白みがないが、こうしてハリウッドから自浄作用的な作品が生まれることが羨ましい。当事者を傷付けないよう配慮しつつ実名でしっかり描くバランス。記者のお仕事映画でもあるので、これは「キャリア」を奪われた女性の話なのだということが印象付けられる。

基本的には調査の過程を描写していくが、そこに記者2人の家庭と仕事の両立や、生活空間にも蔓延る女性蔑視などの描写を挟むことで、この事件の根本にある社会構造の問題を意識させる。正直、映画としてあまり有機的に結びついている感じはせず、義務的に繋げた感はあるが、一定効果はある。

犯行手口の描写は実際の音声や当事者の証言に任せ、映像はあくまで連想させるようなカットに留めている。決して事件自体をだしにせず、声を上げられないシステムへの恐怖をサスペンスとして見せようという姿勢。それは評価できるが、にしては真相究明されるか否かの過程に盛り上がりが薄い。ドキュメンタリーではなく実話ベースの映画として描くなら、「金と恐怖で弱者を黙らせる」システムの仕組みが判明していく過程や、被害者らが声を上げるに至るまでの心情変化などをもう少し劇的に描いても良かった気がする。そもそも肝心の取材や調査の場面が単調だし、関連性が分かりづらい。

しかし、冒頭と終盤でフォーカスされるとある人物の、まさに「プロミシング・ヤング・ウーマン」だった人生というものを軸に据える構成は、この事件が性犯罪ということと同時に、女性たちの人生を奪ったのだということを明確に主張している。もっと各要素が彼女に結びつくような構成なら良かったが。

以上のように、個人的には『スキャンダル』と同じ箱に入る作品で、こういう作品が映画化されること自体には驚嘆するものの、内容は割と淡々としており、むしろ人物や出来事の交通整理があまり巧くない。印象的なのはリンゴ食いながらのオフィス闊歩とワインスタインを前にした時の虚無顔くらいだが、意志は感じた。
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