なお

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのなおのレビュー・感想・評価

4.2
”吐き気を催す邪悪”

もともとノーマークだったけど、TLに流れる皆さまの高評価レビューが気になり鑑賞。

歴史に残る数多の名作映画を世に送り出してきた輝かしい経歴を持ちつつも、自身が加害者となって引き起こした性暴力スキャンダルにより失脚したハーヴェイ・ワインスタイン。

映画界だけでなく各界にも顔が利くワインスタインの悪行を世に知らしめるのはやはり一筋縄ではいかない。

ワインスタイン本人からの圧力、真実を知りつつも報復を恐れ、貝の如く口を閉ざす証人たち…
そのような艱難辛苦を乗り越え、ワインスタインの非道な行いをいかに報道したのか。

ニューヨーク・タイムズ紙に務める実在の記者、ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンター2名の活躍を追った作品。

✏️SHE SAID, HE SAID
「#MeToo」。
本作のあらすじを読んで、久しぶりにこの運動の名称を思い出した。

この運動が活発になったのが今から6~7年前。
自分は当時ニュースでしかその名前を知らなかったせいもあって、なんだか急にムーブメントとして巻き起こった感があったけど、その”波”が起きるまでにはミーガンとジョディを中心とした多くの人物の活躍と苦労があった。

特に、ワインスタインから実際に性暴力を受けた女性たちから、当時の被害状況やその時行われた真実を引き出そうと各地を奔走するミーガンとジョディの姿を追うシーンは迫真のリアリティ。

「ワインスタイン」という名前を聞いただけで怯え、動揺を隠せなくなる被害者たち。
被害を語る方も勇気がいるが、そんな被害者たちに話を聞くミーガンたちも自分たちの行動には細心の注意を払わなければならない。

時に被害者の元を訪ね、時に返ってくる保証などないメッセージを残し、時に表情をうかがい知ることのできない電話越しに。
ワインスタインからの報復を恐れず、巨悪に立ち向かおうとするミーガンとジョディの活躍が実にテンポ良く描かれている。

リアリティといえば、物語中盤で挟まれるワインスタインとある一人の女性の会話を録音した音声データ。
これが実に生々しく、陰湿で、男である自分が聞いてもワインスタインに対して激しい嫌悪感を覚える内容である。

彼は言う。
「何もしないから」
「少しだけだから」
「1分だけでいいから」

彼女は言う。
「イヤよ」

誰にでもわかる、実にシンプルで明確な「NO」という意思を提示しているのに、ワインスタインは己の権力を振りかざし一人の女性の人生をほしいままにしていたのだ。

己の利益だけのために、弱き者を利用する---
「#MeToo」という世界的なムーブメントを巻き起こすきっかけとなったワインスタインの悪行の数々。
そのほんの1事例ではあるが、自分にとっては大変印象的で心に残るシーンであった。

✏️真の報道
我が国の映画界においても、園子温監督が自らの制作映画に出演した俳優に対し性加害を加えたという報道があった。
記憶に新しいところだと、自らが受けた性被害の実態を告発し、現在もその活動を続けている元自衛隊員・五ノ井里奈さんのニュースもあった。

無論自分は新聞記者でも警察関係者でもないので、性暴力の被害に遭った方にインタビューしたり話を伺ったりする機会はないが「自らが受けた被害の記憶」を掘り起こし、それを他人に話すという行為にどれだけの覚悟と勇気がいるだろう。

一度でも性被害を受ければ、文字通り人生を狂わされ、自分が進むべき”道”を奪われることになる。

性被害はその立証が難しい。
「合意の有無」だったり「性加害したという認識はなかった」などの水掛け論になりやすく、基本的に被害者側が泣き寝入りするパターンが多いように思う。

そもそも、本作でワインスタインから性暴力を受けた女性たちのように「秘密保持契約」なるもので話すこと自体ができなかったり、自分の意思で「話さない」と決めている人もいる。

「報道」という言葉の意味。
辞書を引けば「出来事を広く告げ知らせること」とある。
だがしかし、報道という言葉の真の意味は、その出来事を広く告げ知らせることで「道を奪われた」人たちに対して「新たな道を報せる」ことなのではないか、と思う。

本来あるべき真のジャーナリズム。
そのようなものを、ミーガンとジョディは本作で我々に提示してくれた。

☑️まとめ
恐らくTLを追ってなかったら見ることはなかっただろう傑作に出会えた。
フィルマ、ひいてはフォロワーの皆さま様々です。

「#MeToo」というムーブメント以降、性被害を受けた人---特に女性たちは以前よりも格段に声を上げやすくなった。
それでもまだ、世間に出ている性被害の声や報道というものは氷山の一角だろう。

被害者を守り、真実を正しく報道するには。
そもそも、性暴力を根絶するには。
本作を見終えた後も、改めて「性被害への対策」そして「報道」の在り方というものについて思いを巡らせてしまった。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★☆☆
😲驚 き:★★★★★
🥲感 動:★★★★☆
📖物 語:★★★★★
🏃‍♂️テンポ:★★★★☆

🎬2023年鑑賞数:9(2)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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