セサミオイル

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのセサミオイルのレビュー・感想・評価

4.0
当時の映画界の大物による性加害の実態を記事にするまでの長く険しい道のりを描いたとても意義深い作品。
事件の詳細を知る絶好の機会だと思い観に行きました。
想像を遥かに越えた規模と内容のひどさでした。これ以上被害者を増やさない為にこの事実を明るみに出さないといけないという事で編集長に太鼓判を打ってもらい被害者や関係者への取材を開始します。
事件の性質と強い緘口令がある事から被害者の口は重い。しかし取材記者はその固く閉ざされた心を誠意のこもった態度で徐々に開いてゆきます。

女性2名の取材記者を万全の体制でバックアップする3人の上司。兎に角この3人がめちゃくちゃカッコいいです。彼らの毅然とした行動や判断はおそらく報道はフェアで在るべきという理念に裏打ちされたものだろうと思う。
僕が仕事バイブルにしてる大好きな映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」もニューヨーク・タイムズを舞台にしてますが仕事に対する真摯な態度が同じですね。憧れのニューヨーカーって感じです。

後半クライマックスでは「Thank you」という言葉が頻出します。被害者たちの勇気に対する記者からの謝辞ですね。事件の凄惨さを考えると絶望しそうになりますがこの世は闇ばかりではなく眩しいほどの強い光も沢山あるんだと思わせてくれます。

この映画には加害者の映像はほとんどありません。映っても背中だけ。この事件に関わった多くの被害者達もこの映画を観るという事を想定して配慮したというのもあるのでしょうが、必要以上に観客を煽らないという意図があるかも知れません。
スキャンダラスな内容ですが日本のワイドショー的な客をバカに見立てたような煽り演出が一切ありません。
この点も3人の上司と同じく公平で毅然としててそこに痺れる憧れる。
被害者の1人と当時付き合ってたブラッドピットは当時加害者の元に殴り込みに行ったという話があります。
そしてこの映画に関わった制作会社「PLAN B」は何を隠そうブラッドピットが設立した映画制作会社です。
時を経て映画人が映画で仕返ししたんですね。
この映画、何から何までカッコいい。
感服いたしました。
そしてそのカッコよさとは別に、この映画はより多くの方に観てもらいです。
バカが支配欲かなんか知らないけど有頂天になって色々やってた一方で被害者はどれだけの苦痛があるか。精神が処理し切れない程の過度なストレスが瞬時に押し寄せ怒り、悲しみ、恐怖が消えない。年月が経って忘れるどころか悲しみ、怒り、憎悪はよりくっきりと形を現す。
それがどれだけ辛いことか。
映画を観てそのつらさの一部でも知る事が出来ると思います。
それが何よりこの映画の持つ教訓であると思いました。