CHICORITA主任

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのCHICORITA主任のレビュー・感想・評価

4.4
ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行事件とその揉み消しを暴いた、NYタイムズの2人の記者、そして勇気ある証言でワインスタインを告発したサバイバーたちを描いた実録作品。
その後の#MeToo運動に火をつけた告発記事が、いかに取材され世に出されたか、記事公開のその瞬間までを描きます。

まず作品の姿勢として一貫しているのが、あくまで被害を受け、その上機密保持契約で声を奪われ怯えながら過ごすことになった多くの女性たちが、素晴らしい勇気と覚悟で告発を行ったか、を描くという点でした。ワインスタインによる卑劣な犯罪がどのように行われたか、そういったスキャンダラスで下世話な視線は慎重に排除され、ワインスタイン自身が登場するシーンにおいてすら、彼の顔を写すことはしません。あくまで主役は勇気あるサバイバーたち、そしてその手助けをした記者たちなのです。

映画の作りもケレンを廃した実直なもので好印象。記事公開後の顛末を観客の体験に委ねた切れ味のあるラストも見事でした。

そして主演であるキャリー・マリガン、ゾーイカザンの演技の素晴らしさ!権力者と対峙した際の強い眼差し、サバイバーに対する優しさと共感に満ちた演技など、一貫していながら二面性を求められる役柄を見事に演じていたと思います。
また、アシュレイ・ジャッドなど数名の被害者が実名・本人役で出演している点も特筆すべきことです。彼女たちの勇気ある告発が、現在の女性を巡る状況を大きく変えたといっても過言ではないでしょう。

作品そのものは申し分のない出来で見る意義のあるものに仕上がっているだけに、やはりアカデミー賞ノミネートからは完全無視をされてしまったことが残念でなりません。
まだ傷は浅く、加害・被害の両面で当事者たちが数多くいることも無関係ではないのでしょうが、ハリウッドの映画人たちが自らの襟を正す意味で、ぜひ取り上げて欲しかったと強く思います。

男性として、映画ファンとして、自らを顧み背筋を伸ばさねばという気持ちになる作品でした。見るべき一本です。ぜひ劇場で。
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