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SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのumisodachiのレビュー・感想・評価

4.5


ハーベイ・ワインスタインによる性的暴行を暴いて記事にした実在の女性記者2人描いた作品。

ニューヨークタイムズ紙のジョディは映画界の大物プロデューサーであるワインスタインの性的暴行の嫌疑を追っていた。育休から復帰したミーガンもジョディにジョイン。彼女はトランプのセクハラ疑惑を記事にした経験があったが、ワインスタインの件もそのとき同様に大した社会的変革を起こせないのではないか?と危惧していた。元社員や女優の証言を集めていく彼女たちだったが、誰もが報復を恐れていたり示談の内容に縛られていて、自分の名前を記事内で明かすことを拒否。なんとか記事にしたい彼女たちは……。

硬派で真面目で誠実な映画だった。記者であり、女性であり、母である2人の女性が真摯に被害者や関係者と向きあい(その中にはワインスタイン本人も含まれる)、公平性を遵守しながら真実を社会に伝えようとする様子が淡々と綴られていく。センセーショナルな演出や被害の再現は徹底的に回避されていて、被害者への配慮が徹底されている。

圧倒的な権力の前に屈するしかなかった女性たちの姿は悲痛であり、言葉や表情だけでその卑劣さが十分に伝わってくる。そして、その事実を黙認していた男性たちの葛藤も描かれている(葛藤のレベルはピンキリだが)。

また、ニューヨークタイムズの社内のやりとりもかなり興味深い。特にパトリシア・クラークソンが演じる女性上司の決断力と覚悟は目を見張るものがあり、理想的なリーダー像だった。出すべきものは出す。しかし、あくまでもジャーナリズムとして公平に。部下たちへのプライベートへの配慮も怠らず、常に責任は自分が取る姿勢を持っている。かくありたいと思う理想のキャラクターだった。

記者ふたりを演じたゾーイ・カザンとキャリー・マリガンのリアルな佇まいと強い意志も素晴らしい。ジョディは途中で唯一の失敗といえる言動をとってしまうのだが(被害者の家族に秘密を明かしてしまう)、そういった弱さも含めて堅実に演じていた。

アメリカではまったくヒットしなかったそうだが、とても良い映画なのでぜひ。
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