端的に期待が高すぎたのかもしれません。時間を巻き戻すなかで、人物が自らの未来を無意識のうちに知っているかのように思わせる不可思議な感覚も少し生まれはしました。だが、生きていくと取り返しのつかない出来事があるよね、を遡行的に見せたところで、そんなことは皆わかっているのだし、そのなかでどう生きていくかのほうが大事だし、追憶と後悔に浸りたい観客が気持ちよく慰撫されるだけなのではないでしょうか。ノスタルジックな政治性を感じるならなお厄介です(民主化運動は素晴らしいことだとして)。ハッとするショットがあまりなく、主観/客観、記憶/記録などに対する演出意識も薄いと思いましたし、伏線もミエミエ。不倫相手を挟んだ夫婦の位置関係の安易さなど、個々のシーンが結局説明になっていて、ドキドキしません。何かが変化する/うまれる瞬間は、階段の見送り、群山の一夜にほんの少し片鱗があっただけで、あとはどこにあったのか。思いがけないムン・ソリの可憐さだけが救いでした。
