サマセット7

MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらないのサマセット7のレビュー・感想・評価

4.1
監督・共同脚本は「14歳の栞」の竹林亮。
主演は「映像研に手を出すな」「鳩の撃退法」などの円井わん。

[あらすじ]
小規模広告会社に勤める吉川朱海(円井わん)は、休日返上徹夜上等の仕事漬けの日々をこなしつつ、有名広告会社への転職まであと一歩と信じて奮闘していた。
そんな徹夜明けのある月曜日、会社の後輩2人から声をかけられる。
「僕たち、同じ1週間を繰り返しています!!」
世迷言と聞き流した吉川だったが、「鳩」のサインが記憶を蘇らせ、タイムループに気がつく。
後輩たちによれば、上司の永久茂部長(マキタスポーツ)がループ脱出の鍵を握るらしいのだが、部長がタイムループに気がつく様子はなく!!??

[情報]
CM製作から活動の幅を広げる監督・共同脚本の竹林亮の2022年公開の2作目の長編劇場用映画作品。
前作「14歳の栞」はアイデア勝負のドキュメンタリーだったようなので、フィクションの劇場用映画監督は初めて、ということのようだ。
とはいえ、CM製作やネット配信短編映画などで実績があるらしい。
共同脚本の夏生さえりとは、ネット配信でも共作したコンビとなる。
2人を中心とした脚本グループは、TAKE Cという名称で活動しているらしい。
今作のクレジットもTAKE Cとなっている。

2022年10月14日から先行上映中で、本日は公開3日目の「月曜日」。
そのためデータや評価が出るのはこれからだろうが、Filmarksでは今のところ、高い評判を得ているようだ。

ネット記事によると、実在の社長が毎年正月に社員に同じメッセージを発することから、タイムループ説が囁かれた、というエピソードから生まれた作品らしい。
ジャンルは、お仕事ものコメディとタイムループもののミックスである。

[見どころ]
繰り返されるタイムループ現象により、社畜生活の地獄っぷりが鮮やかに照らし出される、秀逸なアイデア!!
社会人あるあるを皮肉った、連発されるブラック・ユーモア!!
人生にとって大切なのは何なのか?を問いかけ、最後には勇気と元気をもらえる、ポジティブなメッセージ性!!!

[感想]
面白かった!!!

低予算のワンシチュエーション映画で、役者も知っている顔はほぼいないのだが、「社畜タイムループ」というワンアイデアで魅せる映画になっている。
毎日同じように、目の前にある仕事に追われ、効率化のため繰り返しの作業はルーティン化し、夜遅くまで働いて泥のように眠るとまた月曜日が来る。
あれ?また月曜日!!??というのは、社会人あるあるだが、たしかに、感覚的には毎週タイムループしているようなものかもしれない。
今作は、こうした苦笑するしかない「あるある」を、巧みにくすぐってくれる作品だ。

今作の広告会社は下請けの仕事が立て込み休みも取れない様子。
転職を目指す主人公は、転職希望の会社からの無茶な依頼にも対応しなければならず、完全に限界だ。
ろくに会えない彼氏からも愛想を尽かされかけている。
上司たちも1人脳天気そうな部長を除き、それぞれ似たり寄ったりな状況で、頼りになるのは自分だけ。
と、いう状態で何度も繰り返される1週間。
まさに地獄のループ!!!

にも関わらず、「もしも今週ループを抜けられたとすると、その時仕事が滞っていると困るから」という理由で仕事を放り出すこともなく、繰り返される仕事と並行してオフィス内でループの原因を探っていく、という辺り、思考回路が訓練された社畜すぎて笑える。
さらにループによって仕事が効率化され、洗練されていく様子は、さながら社畜版オールユーニードイズキル。
皮肉や自嘲も含め、悲壮にならずコミカルに描いてくれるため、観ていてストレスは皆無だ。

今作のクライマックスは、副題にもあるように、部長にタイムループを理解させるくだりだろう。
そのために主人公たちが思いつく作戦は、まさしく会社組織ならではのもの。
苦労に苦労を重ねて、いざ部長に説明をする場面は、畳み掛けるような演出も含めて爆笑ものだ。
ここから続く一連のシーンだけでも今作は観るに値する。

ループものであることを高らかに告げるオープニングクレジット、デジタル時計によるループ説明、ループ開始を告げる「鳩」など、ループに関する演出はなかなか上手い。
作中でも言及される「ハッピーデスデイ」「オールユーニードイズキル」「恋はデジャヴ」といったループものの先行作を研究した成果と思われる。

終盤の展開は、メインのテーマを語るにおいてはややとっ散らかった印象を受けた。
ループの解決ロジックと作品テーマが完全に一致していれば、まごう事なき傑作だったのだが、惜しくもそこまではいかなかったか。
とはいえ、爽やかでしっかりとメッセージ性もある、良い締めだった。

結論は、大満足!!
オススメです!!!

【テーマ考】
今作は、永久に続くかと思え、同じことの繰り返しにも思える会社員の仕事の日々に、いかなる意義を見出せるか、ということを主題とした作品、と見た。
今作の1週間のタイムループは、月曜日に始まることも含め、会社員の「仕事」のメタファーと捉えることができる。
誰もが同じ場所で足踏みをして、前に進んだ感覚を見出せず、地獄のような社畜生活をリピートしているのだ。

そして、タイムループを抜け出すための試練の数々は、「一歩前に踏み出す」こと、すなわち、仕事人生に意味を見出すために、何が必要か?ということの寓意に他ならない。
この点は、主人公の「仕事」に対する心情の変化と成長、あるいは、オフィスの全員が一つのことに向かって力を合わせる様子に注目すると分かりやすい。
それが上司の説得という方法で実現されるのはシニカルだが、部長のいくつかのセリフは、テーマと絡んでハッとするような含蓄がある。

他方で、今作のループ解決のロジックや終盤の展開に照らすと、今作には、若い主人公やオフィスの各メンバーのストーリーラインに共通するテーマとは別に、部長というキャラクター固有のサブのテーマがあったような気がしてならない。

ただ会社にいる、何の役に立っているのか、分からないようなオジサン。
会社員あるあるの一部として切り捨てるのは簡単だが、今作は、そんな現実と折り合いをつけまくったオジサンにも(しっかり笑いのタネにもしつつ)、「前に踏み出す」方法を提示しているのではあるまいか。

ラスト、部長が存在価値を発揮する姿は、圧倒的に輝いていた。
オジサンに花を持たせるところも、何とも社畜めいて今作らしく皮肉が効いて、面白いではないか。

あるいは、今作の終盤こそが仕事の真髄を描いているのだとすると、それはそれで深い。

[まとめ]
低予算で作られた、タイムループものに新風を吹き込む、社畜ブラックコメディの収穫。

俳優陣は端役も含め全員良かったが、個人的に、後輩2人のとぼけた味わいが好きだった。
全編ユーモアが漂うバランスは、この2人の存在が大きかったように思う。