クシーくん

イエス様 マリア様 ヨセフ様のクシーくんのレビュー・感想・評価

4.4
Amazonでもうすぐ見放題終了という事で観た本作、マラヤーラム語でキリスト教という全くピンと来ないテーマではあったが、とてつもない熱量の映画だった…。

インド南西部の漁村、いつもフラリとどこかにいなくなる老父が何日かぶりで帰ってきたと思いきや突然死してしまい、葬儀の準備で次々と巻き起こるトラブルを描いた一日間の物語。

不愉快な人物の連鎖。性格が終わってる看護師に、周囲を混乱させるようなデマを広げる嘘つき男(こいつがかなりの戦犯)、粗悪な棺を高値で売りつける悪質な棺桶屋、弱みに付け込む守銭奴な半裸の金持ち、推理小説が好きで人の不幸をエンタメにする心の狭い神父。村議員で主人公に親身になるアイヤッパンだけが、唯一の良心。

外部だけが異常な連中というわけでもなく、作中最も不愉快なのは母親というのがまた凄まじい。作中、全然リラクゼーションしない環境音楽のように、わざとらしく大声で周りにアピールするように泣き続ける、このウザさたるや。それとも私がインド文化を知らないだけで、いわゆる泣き女的な風習なのだろうか?
お母さん完全に泣き止んで真顔だったのに、息子の嫁の親族が来るや否や再び泣き叫び始めたかと思いきや、泣きながら全然挨拶に来ないだの持参金が少なかっただのネチネチ嫌味を言い始めて笑っちゃうほど醜悪。
既に故人を棺に入れて、花輪に囲まれてる中で医者が葬儀に来たら「先生、夫を助けて~」って(笑)
そして亡父の衝撃の秘密が明らかに…ここまでされたら息子もそりゃおかしくなるわ。ただ父親の為に、約束を守ってあげたいだけなのに。物事はどんどん悪い方向へ行ってしまう不条理劇。怒涛の雨描写も分かりやすいけど凄まじい。

狭いコミュニティで泣き叫び、人を騙し、大声で喚き、怒鳴り、騒ぎ続けるインド人の暑苦しく鬱陶しい人間関係と右往左往をたっぷり2時間見せられると非常に疲れる。
しかし、それでいてなんとも人間臭さに満ちみちた充実感よ。不快と厭の駄目押しでここまで人を圧倒させられるか!という新たな発見を得た。悲劇を徹底的に貫くと喜劇になる優れた作品例である。お葬式が大変なのは万国共通なんだね。でもねえ、それでもね。

飲酒喫煙がある度に画面右下に例のマークが入るのはインド映画恒例で慣れたが、途中タバコは健康被害を促進します!ってCMまで入って笑った。
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