イライライジャ

Pearl パールのイライライジャのネタバレレビュー・内容・結末

Pearl パール(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

前作『X』は79年が舞台だが、今作はその61年前の1918年が舞台。あの殺人老夫婦の妻が主役。

第一次世界大戦で戦争に行ったきり帰ってこない夫。スペイン風邪の流行で神経質になるモラハラ母。全身麻痺で話すことも出来ない車椅子の父。そしてその状況下でダンサーを目指すも自由になれない女性パール。

前作で若さと老いの対比が重要だと思ったが、今作を観ると自由に生きて苦労もせずカメラに映される若者への嫉妬と憎悪を持っていたことがわかる。
不遇な環境と家族問題の限界の果てに精神崩壊。唯一の希望だったオーディションすら受からず、哀しみのシリアルキラーと化す。

何といってもミア・ゴスの演技力に尽きる。約8分間の迫真のモノローグは凄いとしか言えない。圧倒されて一緒にボロボロ泣いてしまった。エンディングの5分以上の長回しも狂気と哀愁で感情が滅茶苦茶になる。
このシリーズはミア・ゴスあってこそ。

『何がジェーンに起こったか?』『オズの魔法使い』を参考にしたとのことで、確かに両作品が混ざったような夢見心地な狂気が漂う。クラシックな空気感なのにどことなくモダンな殺人描写にゾクゾクする。

最後の最後に夫ハワードが帰宅する。
まさか登場が一瞬とは思わなかったけど、3作目は80年代が舞台なのでハワード視点が描かれることは無い。
つまり1作目で共に殺人するのを見るにハワードは究極に一途でイイ奴。妻の夢をいつまでも叶えてあげたい優しい殺人鬼。(?)
やっぱり夫婦の「衰えない愛の物語」なんだと思った。スターになれなくても愛する人と同じ場所で死ねるのはむしろ本望なのではないか。

情緒が滅茶苦茶にされる映画でかなり好き。