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Pearl パールのYNのレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
3.3
ユーロライブで試写にて鑑賞

前作X エックスが年間ベストでブッ刺さったのでそれはもう楽しみにしていた。
ただ、結論から言うと楽しみにしすぎてしまったなという感じ。

序盤はついに若きパールを演じるミア・ゴスを見られるというだけでだいぶ感無量、Xと同じセットで重ね合わされるさまざまな要素(たとえば印象的なオーバーオール)も見ていて楽しい。

しかし、中盤からどうも話運びに違和感を覚えてくる。これはおそらく、パールを共感可能な主人公として描くのか、恐ろしいモンスターとして描くのかが定まっていないところからくるのではないか。
また、ストーリラインとしても起きる出来事は相当にこぢんまりとしていてやや退屈なきらいがある。
母親との確執のクライマックスも、同じようなシチュエーション、同じようなセリフでもっと切実な映画作品が頭によぎってしまい今ひとつ乗り切れない。

終盤、パールが自分の気持ちを吐露する独白は、ミア・ゴスの演技力もあり、初めのうちこそ良いなと思ったものの、あまりにも長い。
それをセリフで説明する脚本もいかがかと思うが、なによりワンカットというのがいただけない。見てて「ああワンカットだな」と思うこと自体かなりノイズなのだ。ワンカットでこの演技を見せたいんだな、というのは、映画の外側のことであって、映画を見ている観客に悟られてはならない。
だがこの長回しは半分もいかないうちに「ああ、ワンカットがやりたいのね」と感じる。自然に作るならカットバックで相手のリアクションも見せるべきシーンだったと思う。

このような感じで、Xに比べると随分と語り口が拙い印象だった。ミア・ゴスの技術に寄りかかり過ぎているとも思う。映画の全体ではない部分に意識が散っているような印象を受けた。

内容的には、予告の楽しげな感じやキャッチコピーにある「無垢」な感じは本編にはなく、ひたすらに悲愴な話だった。
Xファクター「である」(少なくともカメラの眼差しはそう映していた)マキシーンに対し、「でない」パールを同じミアゴスが演じてみせると言う構造はなかなか残酷だが、しかしミアゴス自身がやはりXファクター、他にない唯一無二の魅力を持つ俳優なので「でない」というのにやや難しさがある。
終わり方についても、Xという後日譚があるのだからもっと方向を示しても良かったと思う。


書いてみると気になった点が多くなってしまったが、無論良かった点もある。
このシリーズでタイ・ウェストは一貫して「ホラーにおけるお約束の踏襲と読み替え」を行っている。たとえば「ブロンドは死ぬ」。たしかにX同様ブロンドは死ぬのだが、しかしそのブロンドのキャラクターを「死ぬような(死んでもいい)ブロンド」とは明確に違う造形にしている。
Xでもそこが好きだったのだが、あまり極端な悪人というのは実は出てこないシリーズだと思っている。ずるかったり弱かったりダサかったりすることはあるが(これらの要素は主に男性に割り振られることが多い)、邪悪とまではいかない。もっと邪悪なムーブができるところでそうはしない。ダメさも含めて可愛げのある人間像だと思う。
ミア・ゴスの芝居も当然良い。ただ先述のように、役を演じるということ以上に、「ミア・ゴスという役者の持っているスキルを見せる」ことが目的化されたシーンがあまりに多かったのはかなり残念だ。Xでパールを演じたときのほうが彼女の真の魅力を引き出せていたように思う。


とはいえ、あまりに高い期待値で正しく受け取れるのだろうか?という不安を抱えての初鑑賞だったので、公開後Xを見直した上で改めて見てみようと思う。2回目では感想が変わるかもしれない。よりポジティブな印象になることを願っている。
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