じゅ

Pearl パールのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

Pearl パール(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ゴスさん...エンドクレジットの後ろでほとんど全然まばたきしねえじゃん...。


スペイン風邪が猛威を振るう1918年。ゴスさんのパールはスターを夢見る。抑圧の強すぎる母と、全身不随で付きっきりの介護が必要な父のいる農場から出て銀幕で踊るダンサーになりたかった。夫のハワードは絵に描いたように裕福な家庭の出で、パールを連れ出してくれると思っていたが、農場に婿入りした上に兵士に志願して戦争へ出た。偶然出会った射影技師はパールに何かを見出したが、彼女の異常性に気付くと彼女から離れようとした。義理の姉妹にあたるミッツィは、パールが懸けたダンサーのオーディションのたった1枠の合格を奪った。
初めは小動物。ガチョウを殺して川に住むワニ(セダとかそんな名前)に食わせていた。ある日、母と揉み合いの喧嘩になった際、暖炉の火が燃え移って母に瀕死の重傷を負わせた。ハワードにも隠していた心の暗部は歯止めが効かなくなり、射影技師、父、そしてミッツィを手にかけた。
戦争から帰還したハワード。そこで見たのは異様な食卓の光景。ウジの湧いた豚の丸焼きに、カビの浮いたスープ、それらを囲んで座る腐敗した義父母。再会に笑顔を浮かべて涙を流す妻。


パールさんまじで、何があんなんを創り上げたんだ。哀れでかっけえわあ。

あの射影技師はジョニーといったっけ。元々軽いナンパ心で話しかけたんだろうけど、勝手にのめり込まれてエラいことになったな。『X』でしれっと川に沈んでた古めかしい車に何の説明もなくて地味に気になってたけど、おまえのだったんか。オウ、プア・ジョニー。
パールが三又鍬(とでもいうの?)でざくざくやるところ、なんやらめちゃめちゃ喚いてるのめっちゃ良かった。私はここから出て行くんだママにもハワードにもあんたにも邪魔させなーい!みたいな内容のやつ。ぞわっときて腕から肩の辺りがざわざわした。
あと、冒頭からすげえレトロなかんじに仕上がってて凄えと思ってたけど、血糊までなんかピンクがかった昔っぽいかんじになっててこだわってるなーと思いました。

ミッツィのくだりはなんかもうずっと好き。オーディションやった教会の裏手か知らんけど、慟哭してるとこからなんやかんやあって斧振り下ろすとこまで通しで大好き。
ミッツィに「私をハワードだと思って」っつってパールが徐々に入り込んでって長々と独白するところって、いつの間にあんな長回しに入ってたっけ。私独り残して行きやがるとかふざけんなくたばれみたいな吐露から始まって、ハワードみたいな美男子に好かれただけで幸運だけどここを出たかったとか、ハワードの家庭は絵に描いたように幸せそうだったとか、だから本当の自分を隠してモノにしたとか、なのにあろうことかハワードは家を嫌って農場に住みたがってたとか、しかも今度は私を置いて戦争に行っちゃったとか、初めはやり返してこない小動物を殺したとか、母親とか射影技師を殺すことはワケが違ったとか、父親は何も悪くないのに殺して悪いと思ってるとか、でもハワードを愛しているから彼がいればここで幸せに生きていけるとかとか...。そりゃあ話を振ったのはミッツィだけども、兄か弟か知らんけど血の繋がった家族の妻がそんなこと言ってんだからあんな顔になるて。その前に随分前にあげた豚の丸焼きを玄関前に放置したままウジ湧いてるし。でもなミッツィ、なんとハワードはどういうわけかパールと添い遂げるぞ...。
その直後、家を出たミッツィの後からパールも出てきておもむろに薪割りの斧を拾い上げて追ってくるところは、本作でも屈指の爆イケシーンだったと思う。カメラワークと長回しの賜物でもあるだろうか。めっちゃめちゃかっけえ。
ミッツィって、パールから見て何もかも持ってて完璧で、たった一つパールが人生を懸けてたオーディションの1枠を奪ったかもしんないけど、べつに意図してパールから奪ったわけじゃなかろうに、むっちゃ一方的に殺された上にバラバラにされてワニに食わされて災難この上なかったな。でもハワードはどういうわけかパールと添い遂げるぞ...。


なんか最後の最後、『Pearl』っていうタイトルコールとA24のロゴが出る間に一瞬何か見えた気がする。気のせいかな。
気のせいでいいか。

前作『X』みたく、クソみてえな現実なんて受け入れるな的なこと言われてた。たしか父親の薬を買いに町の薬局に行った時。最終的には母親に言われたように今あるものを大切にすることにしたんだな。オーディションで審査員に要は未知の才能(Xファクター)が無い的なことを言われちまったもんな。
腐った料理と腐った死体の食卓は要は今あるもの=農場と両親を大切にしようとした一環なのか知らんけど、あんなん猟奇殺人鬼の所業すぎるて。まあ、焼かれて地下室に放り込んで放置して階段を這い上がろうとして力尽きてた母親をひっくり返してその腕に抱かれてた辺り、そういうことなのかな。てかそうだとして、腐った死体の両親を「今あるもの」カウントしないでくれ。
60年後また情熱を呼び戻すような女の子が現れて、期待してまた落とされることになる。本当に望んだ何もかもが期待外れな人生だったなパールさん。文字通り頭ブッ飛ぶし。

マキシーンが飛び出してきた家と同じく、パールの家もクリスチャンだったのな。だから何とか想像してるわけじゃないけど、単に前作のこと思い出せて嬉しい。


閉塞感と羨望と希望と失望と嫉妬と。先天性か後天性かブッ壊れてた精神がそんなんにトドメを刺されて生まれちゃったバケモンは、まあ哀れっちゃ哀れなんだけどそんなもんどうでもよくなるくらいおっかねえんよ。
じゅ

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