叡福寺清子

Pearl パールの叡福寺清子のネタバレレビュー・内容・結末

Pearl パール(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

〈夢は諦めなければ必ず叶う〉.その言葉がただの絵空事であることは,アラ還ともなると骨身に染みわたって叩きつけられるもんでございます.こんばんわ.三遊亭呼延灼です.
もちろん,叶える人だっていらっしゃいます.でもね,そういう方って元々の素地に恵まれてるんですよ.類まれなる美貌だったり,明晰すぎる頭脳だったり,秀でた運動能力だったり,そしてそれらを維持しさらには磨き上げる為の金銭に困らない人が夢を叶える事ができるんですよ.いや,◯◯さんは裸一貫から成功を収めた!って反論も理解できます.でも,そういう方って例えばウィリアムズ姉妹のように例外中の例外で,だからこそ映画の素材になるわけです.「まるで映画みたいな話だ」とね.
であれば,才能も器量も何もない人間はどうすればいいのか.夢を諦める人は幸いです.別の生き方を選ぶ(make your choice!!)権利を手にできるのですから.夢に縋り人生の目的と化し,それでも叶わぬ事実を目の前にした時,自身を蔑むか,怒りにまかせて他者を傷つけるか,あるいは生きた屍のように無為な日常に埋没するか・・・

一方でこんな話もあります.〈奇跡は誰にでも一度おきる だがおきたことには誰も気がつかない〉.ご存知,楳図かずお先生の「私は真悟」の冒頭.夢破れ疲れ果てた人にも奇跡は起きていました.気づかぬ間に.
でもパールはその奇跡に気づいてしまいました.それも最悪のタイミングで.出征し死んだと思ったヘンリーさんが生きて戻ってきた事.それこそ奇跡.本来なら逆『ひまわり』で,1週間くらい助平漬けの日々になるものだったのに,ラストの引きつった笑顔は何を示すか,パールさん.
一方のヘンリーさんにしてみれば,やっと生きて戻ってきた我が家に義両親の腐敗しかけた遺体があるなんて,どんな皮肉なんですか.でも,そんなパールさんを見捨てなかった事は『X』を観た方ならご存知の通り.

その『X』.ポルノ映画撮影隊がやってきたのは,スクリーンデビューの夢を果たせなかったパールさんの農場.そりゃ,結果的にあぁなるのはしょうがないですわな.できれば,本作視聴前に『X』を復習されることをオススメいたします.私はその作業を怠ってしまい,本作のあれやこれやはうろ覚えで確認せざるを得なかったわけです.ちょっともったいなかった.

なお,『X』に登場したのは実存するポルノ映画『農家の娘』.本作でパールが映写室から覗いたポルノもまた実存する『A Free Ride』.IMDBに書いてありました.1919年にはすでに助平映画が製作されてんだから,やはり「助平こそが技術を発展させる」という小西行長の言葉は,説得力がございます.
IMDBに書いてあったといえば,エンドクレジットが始まっても,永遠と映し出されるパールの引きつった笑顔.タイ・ウェストがカットを拒み,撮影を引き伸ばした結果,1分51秒という長いショットになり,さらには予想外の長回しで,ミア自身も戸惑い涙が自然と流れたというわけでございますが,ものすごい印象に残るラストになりました.次作『マキシーン』が,マキシーンの笑顔で始まったら,私はいきなり腹抱えて笑っちゃうかもしれません.
その『マキシーン』.天女デビッキたんの出演が決まっておりまして,恐らく191cmの長尺を活かして,シリアルキラーと血みどろ対決していただけるものと期待しておりますですよ.
あと間抜けなお話ですが,冒頭のロゴで「あ,A24やん」って呟いてしまいました.そりゃそうだろ.ここでボルテージかツイステッドのロゴが出たら,そっちのほうが大事件やわ.