TsuyoshiNomoto

Pearl パールのTsuyoshiNomotoのレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
4.0
《暴力はどこから?の系譜》
人間を描く文学作品にしばしば多いのは、子供は最近まで神様の近くにいたのだから、「純粋」であるというキリスト教的価値観だ。
つまり、「子供の頃の経験は一生を決める」というコンセプトに立脚する、あるいはむしろ立脚しないという立場を意識的に選択することによって、作品は生まれてきた。

系譜を辿れば、シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』トマス・ハーディ『日陰者ジェード』D・Hロレンス『息子と恋人』ウィリアム・ゴールディング『蝿の王』ライオネル・シュリヴァー『ケヴィンの話をしなきゃ』(邦題は『少年は残酷な弓を射る』)など。

Pearlという人間がこの映画では非常に多面的に描かれる。無垢にダンサーに憧れる少女として、部分的に無垢に暴力と親しさをもつ子供として、男性に半ば搾取された過去を持つ女性として、抑圧された母親による再生産的な抑圧を受ける娘として。
さらにそうした状況作り上げる原因に人種差別、貧困などを加えることで、(ああ、今も昔もずっとひどいのだけど)「格差と搾取」というアクチュアリティを映画に持たせる点がA24らしい。サイコスリラーみたいな映画の典型例:「物語の装置としての悪者」や「サイコパス/シリアルキラー」としての殺人犯ではなく、「社会が抱える歪みの表出」としての殺人者としてpearlを捉えられるこの作品は、トッド・フィリップスの『JOKER』に似た演出の作品とも言えるだろう。20世紀(過去)を舞台に21世紀(現代)を描くという点で、オーソドックスな作品のマナーを持った映画。俳優の顔の筋力すごい。
TsuyoshiNomoto

TsuyoshiNomoto