ツクヨミ

Pearl パールのツクヨミのネタバレレビュー・内容・結末

Pearl パール(2022年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

幻想ミュージカルと殺人鬼スリラーを融合させオマージュ的映画愛で包んだタイ・ウェスト版御伽噺。
タイ・ウェスト監督作品。"X"のスピンオフ的な続編であり前日譚なシリーズ2作目がやっと公開、真紅のポスタービジュアルやスコセッシの絶賛コメントやらでめちゃくちゃ楽しみに見にいってみた。
まずオープニング、"X"と同じく農場の真ん中を眺める小屋からのワンショットを扉がゆっくり開かれるスタイルで啓示。そこからいつのまにか室内の横移動ショットでパールが鏡前で化粧直しをしているシークエンスへ、なんとも構図美がバチバチだしブレーカーを切るような音と共に光が消えると黒背景の中でゆっくり踊るパールの姿が見えてくる。この時点で音楽の雰囲気もありめちゃくちゃクラシックミュージカルな始まり方で素晴らしすぎた。そしてそんな踊りが母親の入室と共にパッと終わる切り口、エドガーライト"ラストナイトインソーホー"のオープニングみたいに美しい。
すると次は怒られたパールが小屋に行き、家畜たちをオーディエンスにして小さなショーが開幕、まさにヴィクターフレミング"オズの魔法使い"のドロシーみたいに「こんなところ抜け出して違う世界に行きたい」とつぶやくパールの姿にうっとりする。こんな初めから厳格な母親と農場仕事に鬱憤して現実から逃避するためスターを夢見る女の子像がめちゃくちゃ40.50年代クラシックミュージカルのヒロインしてた。しかしショーの最中にとぼとぼ乱入するガチョウが一匹、邪魔されたと思いパールは農具でガチョウを刺殺するショッキング。あっそういえばこの映画スリラーだったとギャップアハ体験だし、"X"でも出てきた池ワニに殺したガチョウを餌撒きしタイトルバーンなタイトルバックが素晴らしくキマッてる。このオープニングシークエンスだけでクラシックミュージカルとスリラーが融合してて拍手拍手。
まあ本作、トッドフィリップスの"ジョーカー"みたいに一般人が殺人鬼になっていく過程を見ていくドラマサイコスリラーなんだな。初っ端からおかしい子ではあるんだが、厳格な母親と閉塞した農場に閉じ込められている環境要員がパールを狂わせヘイトが殺人を産むという展開は分かりみが深い。前半ラストの母親とのショッキング口論は涙がでるくらい怖くてリアルな辛さがあるし、狂うのも理解できる。また個人的に厳格な母親に圧殺されそうという境遇に共感しまくりだし、パールがシリアルキラーになる理由には納得してしまう一面もあったり。
また前半に登場する映写技師のロマンスは映画愛溢れすぎて最高、年代的にサイレント映画を上映してるし最古のポルノ映画を映写室越しに眺めるシークエンスはロマンチックでありながら"X"みたいにエロティックなのがめっちゃタイウェスト。あと幻想シークエンスでフィルムのざらざら感と質感でサイレント風に仕上げたり、前半ラストとエンディングのアイリスアウトはセンス爆発、前半ラストの抱きつきアイリスアウトなんて美しすぎて拍手したくなる。編集的にスライドしたりアイリスしたりマッチカットしたりスプリットスクリーンでディゾルブしたりと全盛期MGMミュージカル的で最高にオマージュかましてて大満足。
あと映像的に構図やロングショットのパワーやグルーっと回るカメラワークなど凝ってるショットが点在してて良い。ローポジションショットなんかまじで奇抜なカメラワークなんだが見ててめちゃくちゃスリリングなんだよね。鮮やかで深紅が映える色彩も素晴らしいし、そこも"オズの魔法使い"意識してんのかなとか考えたり。ドレスのデザインも良いしキャラ立ちまくりなパールのキャラクターに似合いまくりな組み合わせまで最高。
そしてところどころヒッチコックの"サイコ"なんじゃないかと思う後半から、エグいラストの締め方には美しささえ感じる。あとなんといってもパールの作り笑顔にクローズアップしエンドロールずっと長回しで見せる狂気よ。こんな終わり方見たことないし、アイリスアウトで締めるまである意味怖いのがすごい、でも余韻的には多幸感あるのもすげーし、そこもクラシックミュージカル的なんだよね。
シリーズ2作目なんだが一本の映画として完成されてるし言っちゃあ"オズの魔法使い"と"サイコ"を合わせたような構成力も素晴らしい。そこに映えまくりなミア・ゴスのキャラクター像とクラシックなセンス編集と映像で見せるシンプルな映画力。そして映画愛がオマージュ的に見えるタイウェストらしさが合わさった作品だった。あとシリーズ3作目"maxxxen"?めちゃくちゃ楽しみだなー。
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