マコト

Pearl パールのマコトのレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
4.7
 大傑作!おぞましくも美しく、クラシカルな映画体験ができる作品です。

 まずオープニングの色彩の美しさ、これは通常のカラーではなく、ハリウッド黄金期のテクニカラーを再現したような、色の鮮明さ、と同時に普通のホラー映画のような暗部の濃さがなくまるで牧歌的なハリウッド映画のようでした。これは「オズの魔法使い」を強く意識しているそうで、なるほどその通りだと思いましたが、いきなり主人公パールの所業に度肝をぬかされました。そうこの映画はホラー映画であり、主人公パールはサイコパスなんです。
 そして、物語が進むに連れてどんどんと不穏な要素がたくさんでてきます。第一次世界大戦、スペイン風邪、ドイツ系アメリカ人、冷酷な母親、動けない父親、トウモロコシ畑とかかし(トウモロコシ畑とかかしはスティーブ・キングのせいで怖い)、そしてこの綺麗な衣装をまとった映画は正体を徐々に明かします、これは僕の大好きな嫌なホームドラマなんです。

 でも、この作品が他と違うのはそこにテーマはないのです。そして、表面的なテーマは夢見る女の子で、その子がたまたまサイコパスだっただけ、といった感じなのですが、もっと深いテーマがあると思います。それは前作「X」と同じくセックスと神(宗教)。

 セックスについては、欲求不満のパールを見ていたらよくわかります。特に彼女の殺し方がまるでレイプのようで、殺人がセックスの代償としておこなわれているようです。しかし、それ以上にこのテーマを語っているのは、厳格な母親なんです。そして、母親がそのことを語る時、もう1つのテーマ、神が語られることになります。

 もう1つのテーマ、神については、母親の語りだけでなく、後半パール自身からも語られるます。それは夫ハワードへの語りとしてますが、ハワードを神へと置き換えて聞いてみると、神の沈黙への嘆きになっいます。この2つの語りはこの作品のクライマックスであると感じます。パールも母親も、神の沈黙に苦しんでいる女性なので、最後に二人は和解します。

 そして、ラスト。この作品を見終わって僕は他の作品のことを思い出しました。イングマール・ベルイマン監督の「冬の光」です。この作品の中に、「パール」のラストとそっくりなシーンがでてきます。そして「冬の光」はイングマール・ベルイマン監督の【神の沈黙三部作】の真ん中にあたる作品です。

 僕は1つの予想があります。「X」「パール」そして次の三部作は、この【神の沈黙三部作】をモチーフとして作られているのではないかと。「X」は主人公と老人を同じ人が演じてます、【鏡の中にあるが如く】。「パール」は神の沈黙に苦しむ者たち【冬の光】、そして三作目は【沈黙】神の不在、死んだ父、セックス。どんな三部作になるのか今から本当に待ち遠しいです。
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