SQUR

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしいのSQURのレビュー・感想・評価

3.0
嘘ばっかりだ。
映画は基本的に嘘ばっかりだけど、この映画は特に嘘ばっかりが目についてしまう。
迷って落ち込んで傷ついて後悔して割り切って戻って苦しんで諦めて悩んで、そうして長い長い長い時間の先にようやくたどり着いた結論の一番大切な部分だけを取り出して、言葉になおして、そこに至るように設定や演技を配置していったような、そういった。

大学の専攻は何?
家賃はいくら?
バイトは?
飲み会は?
サークルは他に幾つ見学した?
好きな講義は?
空きコマは幾つ?
全休作った?
初対面の女性と会話をしたとき、何を思った?何を恐れた?
文化祭の賑わいを遠くに聴いた日は?
恋愛の話に傷ついた夜どうやって家に帰った?そのとき何が見えた?俯いていたか、見上げていたか、どっちだった?
恋愛が分からないと思ったとき、それをどう思った?疑った?当然だと思った?
ぬいぐるみと話すときに気恥ずかしさはあった?迷いは?
自分の本当の気持ちを話したあと、帰り道ではどんな気持ちだった?空は晴れていた?そのことに気づいた?
そのあとの1年は何をして過ごした?
家族は?高校までの成績は?
将来の夢は?
性欲はある?女性に性的関心を持ったことは?そのときその感情に何を考えた?
社会に差別があるのを知った日は?
社会に格差があることに気づいた日は?
コロナでせっかく大学に入ったのに対面授業がなくなるってきいて何を思った?
なんの本を読む?買ったけど読まなかった本は?部屋に置いてある小さなテレビを買ったとき、何が観たいと思った?
寝るのは何時?

言葉が沢山あって、そういった大切なものが見えない。

どうしても伝えたいことがあって、この物語は書かれ、映画が撮られたのだと思う。
ただ映画は2時間しかないから、あなたの生きてきた人生を全て詰め込むのは無理だとも思う。

この映画は対話をテーマにした映画だったけど、「観ている私」と「伝えたいあなた」の距離は随分遠く感じた。
それでも、最後のモノローグだけは本当だったと感じた。それは、あなたが誰かに教えるためにではなく、自分のためにかけた言葉だったからだろう。
人形に話しかけるように、映画を通して自分に話しかけてもいいと思う。
ただ次があるなら、今度はもう少しあなたを近くに感じたい、と思った。
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