豚肉丸

美と殺戮のすべての豚肉丸のレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
4.8
写真家であるナン・ゴールディンの作品と人生を振り返りながら、中毒症状により何百万人もの死者を出した薬の利益を得ている大富豪に対するデモを行う彼女の姿を追うドキュメンタリー映画。

大傑作!彼女の作品と同様にスライドショー形式で彼女が撮影した作品群を映し、彼女の人生の背景を追いながら彼女が主導して行うデモの様子を撮影した映像が流される構成が見事。処方箋や血に塗れた偽札をばら撒いて中毒症状によって亡くなった人達を模したダイ・インを行って大富豪サックラー家の所業を告発するデモは力強さを感じると同時に芸術としてもまた見事であり、特にグッゲンハイム美術館で行われたデモの迫力とビジュアルの強さはなかなかのもの。最近日本の美術館で行われたガザ虐殺に対する抗議活動も似たような形で行われたからこそ尚更力強い。

NYのアンダーグラウンドなクィアカルチャーと密接に関係した彼女の半生。そのコミュニティがエイズによって殆どが亡くなり崩壊してしまう過程がとにかく恐ろしい。姉の自殺、エイズによる死、中毒症状による死に至るまで、全てその死が覆い隠されようとしていた事実があり、写真で記録しながらその死を世間に訴えることで決して風化されないようにしようとするナン・ゴールディンとP.A.I.Nの取り組みはかなり心を打たれた。
ドキュメンタリーとしてもかなりクオリティが高く、巨大な権威の象徴であるサックラー家を追放するまでを追う過程は純粋に面白い。最近冷笑されがちなデモについても迫った映画であり、まさに今見るべき映画なのかもしれないなと思った。大傑作!
豚肉丸

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