キャッチ30

美と殺戮のすべてのキャッチ30のレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
4.4
 「オピオイド危機」とは、中毒性の高いオピオイド系の医療用鎮痛剤の過剰摂取問題のことだ。オピオイドは50万人の人々を死に至らしめたとしてアメリカでは社会問題と化している。そんな「オピオイド危機」に挑むのが写真家のナン・ゴールディンだ。

 オピオイド系鎮痛剤「オキシコンチン」の中毒症状に苦しんだ彼女は「P.A.I.N」を設立し、仲間たちと共に抗議活動を行う。標的は製薬会社パーデュー・ファーマー社および会社を所有する「サックラー家」だ。「サックラー家」はメトロポリタン美術館等に多額の寄付を行っていた。その為、ゴールディン達は「サックラー・ウィング」という展示室で「オキシコンチン」のピルケースを投げ、ダイ・インを行う。

 映画はサックラー家との戦いと並行してゴールディンの半生が写真と本人の声で描写される。最愛の姉が自殺したことで両親との関係が悪化し、家を出てフリースクールに通うようになる。やがて写真と出会い、自分の身近な人々を被写体として撮るようになる。80年代に入り、エイズにより自分の親しい友人たちとの悲しい別れを経験する。

 ゴールディンの原動力は姉や友人たちを死に追いやった者たちへの怒りだ。メトロポリタン美術館に捨てられた多くのピルケースやゴールディンの年老いた母親が姉の手紙を読み、それを隣で聞く父親の姿が記憶に残る。