MISSATTO

熊は、いない/ノー・ベアーズのMISSATTOのレビュー・感想・評価

4.2
東京フィルメックスで鑑賞。
パナヒ監督が本人役で出ている自己言及的作品で、いつものように淡々と、時には穏やかだったり監督の口からも冗談が溢れたりしながら進む。
だけど確実にイラン人の深層心理に聳え立つ国境の壁を描いていた。

パナヒ監督が描く、決して強くない、むしろ中にいる人のほとんどは順応してるように見える抑圧の空気は、不思議と別世界にも他人事にも見えない。

↓ここから少しネタバレ感想になっていると思うので要注意↓
東京フィルメックスの本作の紹介文に『2つの愛と抵抗の物語』とあったことを鑑賞後に知った時、私にとってはパナヒ監督と監督がイラン国境から遠隔撮影している映画内映画に出てくる男性俳優が、無意識にイラン社会に蔓延る”女性に自由意思は無いものとする”感覚に陥ってるように見えていたので、それを単純な“愛”という言葉で表してほしくない気持ちが湧いた。
一方で、もう1つの物語軸となるパナヒ監督が滞在する田舎社会では、もっとあからさまに女性に自由意思など当然ないコミュニティ。
その分、パナヒ監督が巻き込まれることになる問題の若い男女は、描かれないものの、互いの意思を確認し合っていることが分かって、こちらは確かに愛の物語かもしれないなどと思った。だが、そこに強く存在するのは個人よりも“コミュニティ”だった。

最後のパナヒ監督の横顔が、今彼が収監されている事実とイランから世界に波及している抗議活動と結びついて、心臓を握りつぶされる苦しさを感じた。

ただどんな人間も、当たり前に意思ある人間として、差別なく生きられる世界であってほしいだけなのにね……
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