イトウモ

熊は、いない/ノー・ベアーズのイトウモのレビュー・感想・評価

4.2
田舎の村の村民たちの金をかき集めてテヘランの大学に行った青年はデモに加わって退学になり、やっと出て行ったはずの村に連れ戻されるし、村の娘と駆け落ちしようとして失敗する。
これはイランに限った話ではなく、どこに行っても「自由」はどこにあるのかわからないという話では。

しきたりで結婚できるはずだった娘を奪われたモテない30男の嘆きも悪役ながらなかなか魅せる。

不幸なカップルたちと駆け落ちの失敗はとりわけ政治映画「勝手にしやがれ」を連想させるし、一層パナヒのゴダール感が強まる。

ただ、ゴダールの政治性がマーシャルプランで流入するアメリカ映画への反発で、経済的闘争だったのに対し、パナヒはいつも政治権力と戦っている。「ここには自由も未来も仕事もない。だからヨーロッパに行く」とイランの少年に語らせるには、ヨーロッパに夢を見過ぎではないか。日本もアメリカもヨーロッパも自由と未来と仕事はまた別の意味で過酷であるはず