ノラネコの呑んで観るシネマ

熊は、いない/ノー・ベアーズのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

4.5
イラン当局から出国禁止と20年間の映画制作禁止令を出されながら、自らを主人公とした「映画らしき物」を作り続けている巨匠ジャファル・パナヒ監督。
今回パナヒは、トルコから偽造パスポートで国外逃亡しようとする男女を主人公にした、ドキュドラマを撮影中。
彼自身はイラン内の国境の村に滞在しながら、リモートで演出している。
ところが村の古めかしい掟が原因となった、若者たちの三角関係に巻き込まれ、ドキュドラマの内容と、村で起こっていることがシンクロしてくる。
タイトルの「熊は、いない」とは、ある村人がパナヒに告げる言葉。
イランでは熊は南東部に生息してるが、トルコ国境付近にはいない。
つまり「熊が出るぞ」とは、人々を怖がらせるための単なる脅しということ。
だが、物語の終わりに起こることを見ると、本当に恐ろしい熊は人間の心にいるのだと思わされる。
誰も幸せにしない掟は、何のためにあるのか。
田舎の村の騒動と、撮影中のドキュドラマの現場で起こること、パナヒ自身の置かれた境遇が全て重なり合う。
描かれていることはシリアスだし悲劇なのだが、パナヒ自身の小太りで温和なおじさんというキャラクターが、絶望的な物語の中での微かな癒し。
だが、本作の完成後の昨年7月に、彼はまた逮捕されたそうで、このままだと6年間の禁固刑に服することになる。
まさに「熊は、いる」ことが証明されてしまった。
そしてこの熊がいるのは、決してイランだけでは無いのだ。
ブログ記事:
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