うみぼうず

熊は、いない/ノー・ベアーズのうみぼうずのレビュー・感想・評価

4.0
熊は、確実にいるなと思わせられる。
ラストのシートベルトのアラームとサイドブレーキの音。警告と緊張、さらには停滞、そして決意を感じるラスト。基本的に静的な映画で、途中退屈さを感じつつではあったけども、最後らへんの畳み掛け方は凄まじい。静かな嵐のような。

ほんわかするようなポスターからの落差よ。映画製作禁止なのにどうやって撮影してるんだろうという疑問に冒頭から答えてくれるサービス精神は素晴らしいが、だから手の内が見られてしまって逮捕されたのでは...とも思う。
なるほど遠隔撮影、遠隔指導か。確かに現代であれば可能だし、自分が撮影していないというルールは守っているわな。

それぞれが信じるものの違いが浮き彫りになっていて、その違いは埋まらない。それは社会のせいでもあるし、育ってきた環境のせいでもあるし、周囲の人間の影響でもある。嘘でも必要な嘘もあり、しかし優しさからの嘘を拒否されることもある。
でもどれだけくだらない しきたりでも何のためか分からない法律だとしても、信じる人々はいてその為に血が流れる。この映画を観たら、そりゃあ他国間の戦争なんて無くならないよな...とも思ってしまう。

それぞれにとっての熊はいて、見えないからこそ恐ろしい。

パナヒ監督の他作品観て思ったけど、イラン国外出国禁止されているからこそ車窓や移動、流れる景色が多いのかぁと感じた。その地を離れられない、縛られているから、せめて映画の中では移動したい。闇夜の中のヘッドライトのようにか細く不安を感じさせつつも、それでもパナヒ監督は進んでいくんだと思う。
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