ふくやま

熊は、いない/ノー・ベアーズのふくやまのレビュー・感想・評価

4.3
衝撃だった。この映画を見たタイミングも、ガザ地区の戦争が起き、イラン人女性がノーベル平和賞を受賞した時だったため、より世界で起きていることに対して目を向けなくてはいけないのだなという気持ちにさせられた映画だった。

少し脱線したので今作の話に戻る。正直なところかなりハイコンテクストで難しかったのでとっつきにくくはある。しかし映画としての完成度はかなり高い。冒頭のシーンがイラン国内にいるパナヒ監督によってリモートで取られたドキュメンタリーになっているという作りはとても良い。ザラの働くバーや舞台の村は印象的。村人は慇懃無礼な態度をパナヒ監督に示す。村は外にも出られずインターネットも繋がりにくい非常に閉鎖的な環境だった。また、パナヒ監督を蝶番のようにして二つの出来事(トルコの亡命カップルのドキュメンタリーとイラン国内の村でのカップルの出来事)を同時並行させてしまうのはすごい。特にトルコとイランの国境沿いまで監督が赴き、二つの出来事が同時に想起されたシーンは印象的であった。

そしてラストシーンはとんでもない。一才の音楽を流さずにシートベルトの警告音とハンドブレーキを引く音だけで終わらせる。ここにパナヒ監督の強い思い、どんなに希望が薄い状況でも変えようとすることを諦めてはいけないという思い、を感じた。国境沿いでパナヒがイランにとどまったことを象徴するようなラストシーンである。
ふくやま

ふくやま