しの

バルド、偽りの記録と一握りの真実のしののレビュー・感想・評価

3.8
よくよく考えれば言い訳と開き直りと自分語りのオンパレードなのだが、その矛盾や曖昧さ傲慢さを抱えた自分そのものを「夢」というある種最強の映像遊び空間で提示してしまう正直さにやられた。ユーモアはあるし意外と綺麗に回収するので普通に楽しんでしまった。

この映画自体、主人公というかイニャリトゥ監督が自身を癒すために作られた夢でしかなく、壮大な自己完結ともいえるが、何より冒頭の夢の中にいる“あの感覚”の見事な映像化から「分かる分かる」となってしまうので、同じ夢を見ているような共有体験がちゃんとできるのだからズルい。

他にも、口を動かさずに喋る演出、シームレスに別空間へと移行する感覚、やたら豪華なリゾートハウスのワクワクする間取りなど、夢で見そうな光景がいくつも出てきて不思議な共感がある。ラストで時系列を越えて全てが繋がる感覚含め唯一無二の、しかし何だか知ってるような体験ができる。

これを自己陶酔というのか傲慢というのかは受け手によるだろうが、とにかく映画を遊び尽くして、それをある種のモキュメンタリー(劇中のワードでいえば「ドキュフィクション」)として提示するのは、それはそれで筋は通っているし何より楽しんでしまったので自分は肯定的な立場を取りたい。
しの

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