あーや

ボーンズ アンド オールのあーやのネタバレレビュー・内容・結末

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

人間の肉ってそう簡単には噛み千切れないんですよね。ゾンビ映画を観る度、あんなに「むちーーー!」っと肉を噛み千切れるのか鑑賞後に自分の二の腕を噛んで検証することが度々あるのですが、今回は鑑賞後に夫とふたりで噛んでみました。全く噛み千切れませんでした。ゾンビたちは相当強靭な顎と特別な犬歯を持っているんでしょうね。なんとまぁ食欲旺盛な屍群ですこと。
さて、本作も人肉をむちむちと噛み千切っておりました。ただ、こちらはゾンビではなくカニバリズム。ゾンビが人を喰うのではなく、人が人を喰う映画です。そして何となく「ハンニバル」「テキサスチェインソウ」のように要加熱調理マイルド食人映画なのかなーと思っていたら、本作監督であるルカ・グァダニーノの出身イタリアの誇るルッジェロ・デオダートの「食人族」やそのオマージュであるイーライ・ロスの「グリーンインフェルノ」のようなハードコア生食人映画だった。そう、ルカ監督の代表作の1つであるCall me by your name(略CMBYN)でキラキラしたゲイ青年を演じ、今年Part2が公開になるDuneでは砂漠の惑星で果敢に戦うプリンスを演じ、同じく今年公開になるWonkaでは若かりし頃のウォンカを演じる、今をときめく美しき愛しのティモテが、本作ではカニバルのリーくんを演じており人肉を生でもりもり食べています。でもティモテの美しさはやはり異次元だった。食人後、顔の下半分から胸のあたりまでしっかり血みどろになっているのに、その眉目秀麗な顔立ちのせいで全く血生臭さを感じさせないのだ。寧ろその洗練された秀麗さと赤く染まった上半身から現実離れした神秘的な美しさすら感じる…。そんな麗しきカニバルティモテに較べて、カルト名俳優マーク・ライランスの演じるサリーちゃんったら…もう……汚いったらありゃしない。汚くて臭そうで悪趣味極まりない。3回登場するのですが、どれも一貫して不気味だった。登場シーンでは白ブリーフとヨレヨレ白タンクトップを着て血まみれになったあと、立ち上がって鞄を漁るときに肉片が口からぽとりと落ちるシーンなんて、ああ…汚い。ハエも群がってるし…。途中でテイラー・ラッセルが演じるマレンちゃんが本能的にサリーちゃんを拒むシーンがあるのですが、私の本能も「はい、私もこいつ無理」と瞬時に感じたくらい狂っております。同じカニバルにも関わらずリーとサリーちゃんの見た目と中身には天と地の差がある。リーのシーンでは端正な顔立ちに癒やされ、サリーちゃんのシーンではあまりの気味悪さに背筋が凍った。そして共通して言えるのは、カニバルたちはみんな孤独だった。
本作はリーとマレンちゃんによるロードムービーなのですが、出会いから旅まで2人はしっかり青春を謳歌するのです。KISSのLick it upでカーキーなダンスを踊るリーくんは可愛かったなぁ。そしてマレンちゃんを見つめるときのリーくんのキラキラした瞳よ。ああ美しい。腹ペコなマレンちゃんのために、リーくんがアイコンタクトでゲイ男性をトラップを仕掛けるシーンなんて…ゾッとするくらい美しい。何なんだほんとに。ティモテ、、映画俳優になってくれて本当にありがとう…!スクリーンで観れて眼福です。
2人は旅の途中で他のカニバルにも出会うのですね。見た目は他の人と変わらない彼らは、どうやら彼らにしか感じない匂いでカニバルか否かを見分けているそうです。それでもレストランで横に座った子供なんかは何らかの違和感を感じ取ってカニバルをじーっと見つめていましたが。出会ったカニバルの中には骨ごと食べる人がいたり、欲が暴走して自らを食人した人がいたりと…サリーちゃんも含めて年老いたカニバル達の未来は幸せそうとは言えない。それでも旅を終えたリーくんとマレンちゃんは少しの間、他の人間たちのように振る舞う。その日常がずっと続けばよかったのに…。映画のラスト、若くて美しいふたりが草原の中で肩を寄せ合うハッピーエンドを見て安堵しました。先述した通り、こちらはロードムービーなので随所でアメリカの雄大な自然にも魅入れます。監督がCMBYNで真夏の南仏の美しい自然光や景色を繊細な絵で惜しみなくスクリーンに投影してくれたルカ・グァダニーノなので、ほとんどのシーンをそれはもううっとりしながら見れるわけですよ。大まかなテーマはカニバリズム映画ですが、若い二人の青春映画でもあり、ルカ監督&ティモテの作品での定石になってほしいティモテのゲイシーンもあり。しかし、カニバリズム映画とは表面上のテーマであって本作の本来のテーマは「孤独との付き合い方」と解釈できます。カニバルのほとんどは家族に捨てられたり、虐待を受けたり、絶縁されている人たち。食人という自分たちの抱える個人的な問題を安易に他人に打ち明けることができず、社会から必然的に孤立してしまった人たち。「食人」という部分を社会的マイノリティーな別の単語に変えたら身近に感じませんか?「孤独に陥ってもこの世のどこかには同じ問題を抱える理解者がいてくれるから。You're not alone」という監督からの優しいメッセージが含まれた作品だと感じました。
それにしても「サスペリア」の次は「食人族」ですか。ダリオ・アルジェントの次はルッジェロ・デオダート。となれば次はルチオ・フルチか?ゾンビか?などと既にルカ監督の次回作をゾクゾクしながら期待しております。(次作でもティモテを…ゲイシーンを……頼みます…)
あーや

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