なべ

ボーンズ アンド オールのなべのレビュー・感想・評価

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
2.9
 ようやく公開。海外ではとっくにディスクが販売されてるというのに遅すぎる。オールタイムベストのサスペリアのルカ・グァダニーノの新作ならばと、何度も海外盤Blu-ray(日本語字幕も収録されてる)を買おうとしたんだけど、ジャケットデザインがほんのり駄作臭を放っていて、もしかしてこれは地雷かと踏みとどまっていたのだが…。
 ぐあああああああぁぁぁぁぁ!つらまーん!あ、あまりのつまらなさに間違えちゃった。つまらぁーーん!
 なんだこれ? ティーン向けの青春映画? アウトローやマイノリティを人喰いで表現してみましたってこと? ロードムービーが好きじゃないってのもあるけど、話がつまらなさすぎる。同じ題材を扱った「RAW」の方がはるかにセンスいいわ。てかRAWの方が断然おもしろいから、本作を観てガッカリした人はぜひ観てみて。
 導入部はよかった。大好きな描写だった。女子会のいい雰囲気のなかで友達の指をガリッといっちゃうのがすごく素敵。何かが目覚めた感じ。そうすることがごく自然なんだと妙な説得力もあって、さすがルカ!うまいなあと感心した。
 その後の同族の爺さんとの出会いも印象的だ。種の概要を簡潔に説明しつつ、生きるノウハウや模索すべき未来などもさりげなく提示する手腕に痺れた。お食い初めの悍ましさもいい感じ。四つん這いで喰らうのがケモノっぽく、反対に爺さんの下着のダルダル加減が害のない老人風で、そのアンバランスさにうわあ、最高じゃん!地雷とか言ってごめん!と謝った。
 ところが、シャラメが登場してから急にやっすい感じになっちゃった。いや、ラブラブ青春映画にするならするで「トワイライト」みたく割り切ってやってくれたら全然いいの。そのためのシャラメなのだとしたらこちらも納得できるし。
 なのに、大したアイディアもなく、2人がダラダラとさすらうもんだから、だんだんめんどくさくなってきちゃった。ロードムービー好きにはアリなのかもしれないが、呪われた宿命の切実さはどこへ行ったんだ⁉︎
 人喰いではないのにカニバる鬼グルメや骨まで喰らうとネクストステージに上がれるというありがたい経験談、人喰いにもいろんなバリエーションがあるのだとするくだりはいいのに、それが生かされないのが悔しい。これってロードムービーあるあるじゃね? 投げっぱなしで回収されないネタフリって。
 一応、マレンの母親に会いに行くって旅の目的はあるんだけど、つまんない顛末で、それまで高まっていた期待がどんどん萎えてゆく。
 シャラメはシャラメでなんだか煮え切らない演技をしてて全然良くない。おまえ何がしたいんだよって感じ。だいたいそんな弱っちい体で自分より大きい奴を倒せるのか?と思ったら、結構卑怯なやり方でエサをゲットしてた。
 原作のリーはもっとタフな男らしいが、プロデューサーを務めるシャラメが改変したらしい。タフな男は得意じゃないから女々しくしようってか。「ぼくはもっとウジウジした感じが得意なんだ(想像)」じゃねーから!

 「家族がいるなんて聞いてないわ!」
はあ?人を喰うのに家族の有無関係ないだろ。独り身に見えても故郷に家族が居るもしれないし。なんか言うことなすことがいちいち浅はかで薄っぺらい。生き物を食べるのは極悪なのでヴィーガン!みたいな知能の低さを感じる。それが青春ってもんだでは済まない浅はかさ。若かろうが、未熟だろうが、もっと狡猾に、もっと密かに生きなきゃなんないって業なのに。だいたい友だちの指を何気なく喰っちゃうような衝動を、どう抑えてフツーにいきるんだか。
 まあ、念願かなってリーとマレンはフツーの倹しい暮らしをするんだけど、そんな穏やかな日常はストーカーによって破られる。
 そこちが〜う!頭のおかしい奴に平穏が破られるのではなくて、自らの衝動が抑えられなくて破綻しないと。でないと人喰いであることの意味がないよ。
 やらかした少女が逃げ出し、老人に知恵をつけてもらい、同じ境遇の美少年と一緒になってさすらうが、ストーカーにカレシを殺される…やっぱり人喰い設定いらんやん!
 でもぼくはまだ諦めてなかったんだよ。ここから、例の骨まで喰らうエピソードが生きてくるのだと。そう思った人は多いと思う。あんなに「骨まで喰うと全てが変わる」と言ってたんだからね。それがあんなくさいラストになるとは…。伏線を捨てた⁉︎ いや作り手が自ら仕掛けた伏線に気付いてない?
 喰う気になれないゲス老人を、ただの食料とみなして貪り食うふたり。そしてついに骨まで喰らって得るネクストステージ!さらなる進化を遂げたふたりには世界がいままでとはまったく違って見えた。そんな超然とした結末を期待してたんだよ。サスペリアのスージーが嘆きの母として覚醒したように。
 実際に迎えたラストは、誰でも考えつく意外性のカケラもないフツーなものだった。しょーもな。あのロクでもないアルジェントのサスペリアを換骨奪胎して別次元の話につくり上げたルカの仕事とは到底思えない。
 他にいくらでもやりようはあったはず。例えばあの老人を主役にする手もあった。
 これまでずっとひとりで生きながらえてきた老いた人喰いが、人生の終わりに、目覚めたばかりの同族の少女と出会い、魅せられてしまう。これまで意識したことのない自分の中の虚空に恐怖を覚え、マレンでその穴を埋めようとあがくようになる。ひとりでいるのが惨めで淋しくて、マレンをつけ回す旅に出る。きっと彼女も淋しいに違いない。われわれはきっと孤独を補い合う関係になるはずだ。彼女を愛してる!なんて人喰い版ベニスに死すみたいな展開の方がよくない? 老人の執着と美少年のひたむきな愛との決戦の方がスカッとしない?
 見終わってからそんな妄想に耽るくらい、つまらなかった。1年に2、3本しか劇場で映画を観ない人々向けのデートムービーってとこだろうか。
なべ

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