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ボーンズ アンド オールのumisodachiのレビュー・感想・評価

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
4.2


ルカ・グァダニーノ監督最新作。

人間を食べる衝動を抑えきれない少女マレンは、父親に捨てられてあてどもない旅に出る。とある町で同じ衝動を持つ男サリーに声をかけられる。色々なことを教えてくれるサリーだったが、マレンは自分の直感に従って彼の元を離れるのだった。そして、別の町で同類のリート出会ったマレンは彼と恋に落ち……。

「人間を食べる」というショッキングな設定を用いて、マイノリティの生きづらさを分解したバイオレンスホラーラブストーリー。加害性を伴ってしまうという点が特異だとはいえ、抑えられない衝動と呪い(彼らは自分の衝動を呪いながら生きている)、無理解な人物による「治るはず」という視線(それが肉親によるものなのが辛い)、「生きている」ことそのものが困難という彼らの人生は果てしなく苦しく、暗く、希望がない。

同じ衝動を持って生きている大人たちの姿が、どれも希望を感じさせないのがキツい。ある者は自分自身を罰して縛り付け、ある者は開き直って罪悪感を封じ込め、ある者は苦しみと矛盾の孤独の中で違う世界を内在化させてしまっていた。自分たちが生きている社会と折り合いをつける手立てがない以上、彼らが社会の中で上手く生きるためには異質な生き方を受け入れるか、ひたすら我慢するしかないのだ。これは、あらゆる社会に馴染めない人々に当てはまる残酷な現実。社会の方が手を差し伸べない限り、彼らの苦しみは終わることがない。「ボーンズアンドオール」そんな風に、他者のことを丸ごと受け入れることができる社会はいつか実現するのだろうか。

ティモシー・シャラメとテイラー・ラッセルのフレッシュで艶やかな魅力、彼らの寂しげな空気は抜群。その個性的なファッションセンスとも相まって、ちょっとしたMVのようにも見えるシーンも多かった。あとはサリーを演じたマーク・ライランスの異様な存在感が秀逸。ただそこにいるだけで不穏で、多くを語らなくとも歩んできた過去が染み出してくるような不気味な深淵さに舌を巻いた。
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