hawelka1992

ボーンズ アンド オールのhawelka1992のネタバレレビュー・内容・結末

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「君の名前で僕を呼んで」の、カラッとして透き通ったイタリアの空や水とは異なり、アメリカのゴツゴツした岩と広大な夕焼けは、どちらも美しいのだけれど、どこか孤独と不穏さを感じさせる。

その風景を反映するように、マレンとリーのロードトリップは、恋人同士のキラキラした美しさもあるが、どこか不穏に満ちている。そして、大災害の如く、唐突に、理不尽に不幸が降ってくる。

しかし、たとえ長くは続かないという予感があったとしても、2人が心を寄せ合うシーンはとても感動的だった。もう少し幸福に過ごす2人を観ていたかったけれど、最後はこうなる他ないな、という終わりであった。

リーのファッションは、ティモシー・シャラメが関わっているとのことであったが、何とも魅力的なルックであろうか。もちろんシャラメ自身の表情や動きもそうだけれど、ボロボロのジーンズ、赤い髪とリーゼントで、若く自由を求める、それでいて優しく、危うげで、臆病なキャラクターを見事に表現していた。

サリーは、子供部屋おじさんのような、不気味で可哀想でみていて痛々しい。
道すがらであった人喰いと一般人のゲイカップルは、不気味ではあるが、かなり印象的だ。「愛がお前を解放するかもしれない」という台詞にインパクトがあったし、ラストに繋がる。マレンよりもリーの方が危ういことも見抜いている。どちらも不気味ではあるが、成熟できなかったサリーと比べて、パートナーを得て、骨まで食べる、という行為も行い、人喰いとしてはマレンやリーよりも、成熟した存在だ。その成熟自体は、若い人喰いには希望になりうるものでもあるが、人喰いとしての成熟のため、人間としての部分を捨てた結果でもあり、家族を持っていた2人は、そこまで人喰いになりきれない。マレンとリーのどこにも行けなさを強調しているようであった。

結局、どれだけ逃避しても、運命は安らぎを与えてくれない。これは、環境や貧困、もっと言えば根源的な孤独という、若者達について回る問題のメタファーでもあると思う。ただ、どうすることもできず、他人を傷つけてしまうような罪を犯していても、苦しみを抱えながらも生きる術を愛が示してくれている。立ち止まって、どこかで運命に追い付かれるかもしれないが、その場で精一杯幸福を噛み締めることを選んだ。逃げ続けることはできないのならば、受け入れる。ラストは残されたマレンを考えると、辛く悲しい。なかった方がいい、死んでしまった方がマシに思えるかもしれないが、少なくともリーにとっては幸福な終わりなのかもしれない。バナナフィッシュのラストシーンを思わせる、美しい映画だった。
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