海

ボーンズ アンド オールの海のレビュー・感想・評価

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
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生きるわたしたちの手はよごれ続けること、わたしただひとりの存在に何の価値も意味もないこと、苦痛と闘っていくことはやさしくないこと、あいするということはやさしいだけではいられなくなっていくということ、悲しみや怒りは醜くないこと、わたしのこの言葉はいつまでも誰にも届かないかもしれないこと、それでもわたしの体と心はわたしがおもっているより美しいことを、教わるの、あなたが示してくれたかたちどおりに。あの日海辺には風があって、一生かけて話すべきことを、ほんの数時間で話し終えた。あなたの長いまつ毛はわたしのと似ていて、あなたの痩せたかおはわたしのとは違った。どこへいこうかと聞いて、どこへでもいけるまでと答えるのを何度もした。あなたのひらかれた世界、わたしたちの風のある世界、ここにずっといられたら、わたしの生きていたことは悲劇にも喜劇にもならずに済むだろうとおもった。あなたがあなたの頬で風を感じ、あなたがあなたの目で世界を見ること、それだけを望んでいて、本当にそれだけがあったらよかった。光が、わたしを照らし、当たり前のように影ができた。当たり前のように肌は焼けた。傷つくと痛んで、みたされると心地よかった。ゆびや、くちびるや、脚や、胸は、ずっと動いていてほしくて、寝ているときも、生きているあいだは、ゆれていてほしくて、だってその中の心を感じることができる。今に体は死んでも、光があなたを照らす。
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