井手雄一

ボーンズ アンド オールの井手雄一のレビュー・感想・評価

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
-
「骨まで愛して」演歌的?愛のコリーダイタリア版(ウソです)

公開当時すっごく観たかったのに忙しくて行けず、やっと配信で鑑賞。
な~んか好きなルカ・グァダニーノ+シャラメっちコンビの新作で、テーマがガール・ミーツ・ボーイ&カニバリズムということで、ルカ監督真骨頂じゃん、と期待値爆上がってました。

いや、素直に 良い純愛映画でした。
演歌的ではなく、このテーマでここまで爽やかに水々しい青春純愛映画を描けるのかと驚くぐらい。。
カニバリズム=性を描いた映画ですが、無垢であるが、その渇望に目覚めていき、自分の人間性と欲望とに葛藤を感じる少女マレンと、純粋でありながら強烈な過去のトラウマによって既に覚醒しまくり、平静を装っていても実は破綻してしまっている青年リー。
同じ「同類」にも奴はジャンキーだと見透かされ、それでも、「愛が彼を変えるかもしれない」と皮肉気味に一寸の希望をもって語るその不気味な「同類」はどこか自分たちの性(さが)や運命を達観しており、この人喰いたちの行きつく将来を暗示していて切ない。あと、変態ストーカーじじいの「サリーちゃん」最高。「同類」でなくただの人だけど、サイコパスなカニバリストとかも面白い。サスペリアでは狂気の魔女たちわんさかでしたが、今回は食人変態さんわんさか。
最高のハマリ役、ティモシー・シャラメ演じるリーは、快楽殺人者のように、「食欲」が出たとき、好みの男性と行為にいたりながら絶頂の間に食い殺すという、普段のやさしくナイーブで温和な彼とは全く異なる本性を垣間見せる。マレンにはその行為が衝撃であるが、本質的には理解出来てしまうがゆえに何か自分の居心地の悪さと、自分の本質を認めたくないもやもやを抱え、そんな時に念願の母親との邂逅をはたすも、自分たちの行く末を決定的に見せつけられ、何も頼るものがないと感じ、家族がいる人間を殺したということを理由にして、一度はリーからも遠ざかろうとする。
彼の過去のトラウマを知ったマレンは、再びリーと孤独を補い合おうと新たな生活を始めるが・・・。あの変態じじいサリーちゃんが!
リーは最終的に少女に自分を「食べる」ように願うが、それは相対的に、過去自分たちを苦しめた父親を実は「愛していた」ことに気付く瞬間であり、マレンにその「快感」を自分によって味わって欲しいという「骨まで愛して」という切望でもある。
そこには愛と快楽、愛と憎しみは違うという哲学や倫理はなく、サディズム、マゾヒズムも包括して、ただただ純粋にすべてが同軸同列のアガペーのようにも感じる。唯一愛と肉欲が異なるとすればそれは心からの共感と同意形成であり、それこそが2人の至った幸福であるのだろうと理解し感情を揺さぶられる。
「骨まで捕食する」ことにより、愛する相手を死を超え自分の中に生かすという最終的な決断が、性への目覚めや欲求という肉体的なものと、純粋無垢な少年少女の自分探しとお互いの想いや共感という精神的な過程を通して、ごくごく自然に描かれており、まさに純愛映画と呼べるものでした。

スレイブマンシップ全開の純愛映画としての「ぼくのエリ 200歳の少女」が好きな僕としては、愛のコリーダイタリア版の本作は、とても楽しめて感動出来た映画でした。(ごめんなさい
井手雄一

井手雄一