InsideoutdowneR

アテナのInsideoutdowneRのネタバレレビュー・内容・結末

アテナ(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

何の前情報なしに観始め、またNetflix映画にありがちな尖った映像を多少織り込んで、作品自体はコンパクトにまとめてきてるのかなー、とか思ってたらとんでもなかった…。

まず目を引くのは場面は目まぐるしく変化し続けるのに、執拗なまでの主観映像と延々と途切れないワンカメラでの長回し。観てる自分の視界の周りでは大きな事から小さな事がぐるぐる回りながら起き続ける。自分は常にその渦の真ん中で物語に強引に引きずり込まれてゆく。画面から少しでも目を離したらすぐに迷子だ。

話が進むにつれ主観が次々と別の登場人物に乗り代わってゆく。渦は回りっ放しだ。

この感覚は何かに似てると思いながら観てたら、まんま「サードパーソンシューティングゲーム」のそれだった。
映画の様な世界の中を自由に動く事で快楽を得たその種のゲームだった筈が、それが世に浸透し切って共通体験となった事で、その揺り戻しとして現実世界のリアルの人間が作品の中で同様の視点を与える事によって観てる側が登場人物と無理せずシンクロ出来るという。

観てる間ずっと映画制作の時代の分岐点に立ち会っているような妙な高揚感を覚えていた。

ただもっと衝撃というかショックだったのが、この物語は凄かったね、楽しかったね、で終わらせられないという事だった。
この物語自体は架空のフランスの何処かの街の話の筈なんだけど、フランス国内の様々な街もそうだけど、世界中のあらゆる街が現在この作品で描いている世界観とシンクロしてしまっていて、この作品と同様かそれより酷い状況はごまんと存在しているという現実。

権力と抑圧、情報の捏造と拡散、扇動と高揚、個人の感情を顧みることなく無慈悲に分断されるコミュニティ。あらゆるフェーズが重なり怒りの対象の輪郭すらぼやけて見えない。

観た後に胸に残ったのは、圧倒的な映像の凄さよりも、その現実の重さだった。
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