Masato

アテナのMasatoのレビュー・感想・評価

アテナ(2022年製作の映画)
4.4

忍び寄る極右の影

長回しで話題になったフランスの社会派スリラー映画だが、2023年6月末に少年が警官に殺されたという全く同じ理由でフランスで暴動が起きたからこそ今見るべき作品となっている。

長回しの多用と団地内を駆け回るワンシチュエーション、そして登場人物の背後にビッタリとカメラが後をつき続けることでゲームのような驚異の没入体験を味わえる。まるで暴動の渦中にいるかのような体験は凄まじかった。それぞれの視点が交錯し、そして時たま聞こえてくる報道番組の音声が没入体験を損なうことなく物語のディティールを深堀りしていく。至るところで計算され尽くした作り方をしており、それが見事功を奏して圧巻の97分だった。

最近フランスで全く同じような暴動が起きてしまったからこそ非常に見応えのある映画だった。移民の暴動はヨーロッパ全土で頻発しているが、その影には極右集団、特にネオナチの思惑が働いているということを描いている。移民を上手いこと操作して悪印象を与えることによって世論を右傾化しようとするネオナチの脅威は全世界で起きていることであり、日本も例外ではない。

こうして世論は右傾化しはじめ、国は対立構造をさらに深くしていき、待ち受けるは分断社会。本作で描かれる暴動はフィクションではないどころか、これから起きてしまう大惨事の生温い序の口でしかない。暴動は一度起きてしまうと歯止めが効かなくなり後に戻れなくなってしまう。だから暴力による抗議はいけないことも描かれている。

余談
最後のマークはフランスのネオナチの紋章
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