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サントメール ある被告のmityのレビュー・感想・評価

サントメール ある被告(2022年製作の映画)
3.5
これは一体誰の話で何の話なんだろうか、と最初の何十分間か、ずっと疑問に思いながら観ていたような気がする。観終わってスッキリ何かが分かったわけではないけれど、色々な問題が内包されていた中、ラマとロランスの視線が交差した時、私はあなたであなたは私であると突き付けられたような気がした。

生後15ヵ月の娘を置き去りにした殺人罪で法廷に立つロランス。その裁判を、次の小説の取材として傍聴するラマ。面識のないふたりの共通点は、セネガル系フランス人であること。
流暢なフランス語を話すも、セネガル出身であることを理由にロランスを嘲笑する証言者の言葉は、ラマにとって他人事ではなかったのかもしれない。何より、このロランスの裁判を通して、ラマは母になる覚悟を問われている感覚になったんじゃないかなと思った。

子どもの父親とロランスで食い違う証言。ロランスの母が話す娘について。
何が本当で何が嘘か、映画では真相に言及していなかったけれど、証言のひとつひとつから、孤独や差別や偏見といったものが、ロランスの心に埃を被せていったんだろうなとは思った。

なかなか理解するのも入り込むのも難しい映画だったけれど、多分中心にあったのは、母と子という普遍的なテーマ。ロランスの葛藤も、ラマの葛藤も、特別ではなくきっとありふれている。


#60_2023
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