KnightsofOdessa

無限の広がりのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

無限の広がり(2022年製作の映画)
4.0
[] 80点

2022年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。エマヌエーレ・クリアレーゼ長編五作目。1970年代イタリアはローマ、空き地に面したマンションに暮らす一家は分裂気味だった。主人公のアドリは自らのジェンダー・アイデンティティに思い悩んでいる。父親はそれを否定的に捉えているが、母親はそれを肯定的に捉えている。そんな母親との関係性が興味深い。アドリにとって母親は、ある意味で自分と正反対のミューズ的存在であり、手の届かないTVの中の売れっ子歌手に彼女の重ねる妄想は頻繁に登場する。一方で、彼女の不安定で子供のような振る舞いにも複雑な思いを抱いている。それは理解者不在のまま大人になることの恐怖にも似ている。夫との仲がどんどん悪くなっていく母親に比べて、アドリ自身は近くの空き地で、ありのままの自分を受け入れてくれるサラという少女と出会い云々。また、興味深いのがアドリの二人の弟妹の描き方だ。この手の作品では存在感が空気になりがちだが、本作品では弟が父親と一緒のベッドで寝る羽目になってめちゃくちゃ嫌そうな顔をしたり、兄弟喧嘩に妹が割って入って子供たちだけは緩い連帯関係を保とうとしたりと、心情を掘り下げて描くことが多く好印象。ともすれば散漫な印象を受けそうなほど、様々なテーマが乱立しているメランコリックな物語を、人物造形のバランス感覚によって奥行きを与えているのだ。記事を書くために調査していると、クリアレーゼが本作品の記者会見で自身がトランス男性だったとカムアウトしたらしい。アドリの物語は彼の経験を基にしているとのこと。となれば思い出補正も絡んでくるはずだが、そのへんも混ぜながら上手くまとめている。
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