延々と歩く

ホワイト・ノイズの延々と歩くのレビュー・感想・評価

ホワイト・ノイズ(2022年製作の映画)
3.6
 「誰も褒めてないけどオレは好き」という、押井守「ガルム・ウォーズ」枠の映画だった。押井さんごめんなさい。

 imdbの英語のレヴュー欄まで読んじゃったけど、不評はおおむね妥当だと思う。「劇中でおきる事件それぞれにつながりが薄い」「時間制限のないネトフリ制作なので長すぎ」…。

 衒学趣味がつよいので、こちらも全部理解したとはいわない。

 「大災害のあとデマ情報がとびかって、とつぜん専門外のことを判断しなきゃいけない時の混乱とストレス」が大半を占めており、そんなの現実のコロナ騒動でお腹いっぱいだわーという不満もよく分かる。

 「笑い」というのは短距離で色々かたれちゃうギミックなので、本作も80分から90分でまとめられそうだった。「このテーマ扱うならさっきの場面だけで充分じゃね?」と感じる箇所がいくらかある。

 とは言え過剰にたくさん見せてもらって楽しかったけどね。監督のノア・バームバック氏はウディ・アレンやジョン・カサヴェテスにつながる「ニューヨークを拠点に市井の人々をえがく」タイプとみられているが、こういう「エンターテイメント大作」っぽいのもやってみたかったのだろう。いきなりのホラー演出もうまいし、終盤のデ・パルマ的サスペンスには思わずニッコリ。

 主人公は「ヒトラー学」なるものを扱う大学教授なのだが、それは自由主義がいきすぎちゃって「家庭がデマの温床」になってしまうまで悪化し、その反対にヒトラーやナチスなどの全体主義に抗いがたい魅力を感じる…規律にかける人々に「これが正解だろう!」と押し付けていくとなんかナチスっぽい…自由世界の中でいい事をしようとするとだんだん全体主義っぽくなってしまうジレンマ…みたいな人かと思ったら、そういうのじゃなさそうだった。「破滅にむかう『トリックスター』とそれが大好きな群集心理」みたいな授業だった。

 天才子役として印象的にデビューした人のその後はナタリー・ポートマンなんかでも完全にクリアできたかどうか難しい問題で、ラフィー・キャシディをみる時どうしても頭に浮かぶことだがとは言え画面を支配できるクールビューティなのは確か。サムとメイのノヴォラ兄妹も顔面偏差値たかめだし演技も馴染んでいた。とくに妹さんのひんやりした雰囲気にやられる。どのレヴューでもかならず美少女子役は褒めやがってこの野郎とか言わないでくださいホントお願いします。
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